【コラム】立教小学校石井輝義先生による、子どもの力の育て方

慶楓会 小学校受験コース主任 松下健太です。
保育園、幼稚園等も進級を迎え、新たな気持ちでこの春をお迎えのことと存じます。学年も一つ上がり、いよいよ受験に関しても本腰を、と考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。その一方で、「受験対策の力の入れ方がわからない」、「どのような方針で我が子の育ちを支えていけばわからない」という率直なお悩みをお抱えの声もよく聞かれます。
今回のコラムでは、当会の顧問をお務めてくださっている、立教小学校メディアセンター長の石井輝義先生より、「子どもの力の育て方」について、文章を寄せていただきましたので、この場にてご紹介さしあげます。(石井先生のご紹介はこちらから)
ブルーベリーの育て方からの学び
購入した自宅の庭に植わっていたブルーベリー
20年ほど前になりますが、中古で自宅を購入しました。その時、庭にかなり大きめのブルーベリーの木が植わっていました。紹介していただいた不動産屋さんから、「花はキレイに咲きますし、葉っぱが赤くなって紅葉もキレイですよ」と言われたことを記憶しています。「花が咲いたあとはたくさん実がなって、楽しいですよ」とも言われました。ブルーベリーが植わっていたから、という理由だけではありませんが、その中古住宅を購入しました。不動産屋さんの話の通り、春にはキレイな花が満開になり、夏になるとたくさんの実がなりました。秋になると、すべての葉が赤く染まり、美しい紅葉を愛でることができました。
農家の伯父による挿木の教え
私の母の実家は、農家でした。実家に帰省した際に、その農家を継いだ母の兄、伯父に庭にブルーベリーがある家を購入したことを伝えました。毎年、ブルーベリーを収穫するためには、冬に剪定する必要があることを教えてもらいました。その時に、剪定した枝を使って挿し木にすると、どんどん増やすことができることも教えてもらいました。しかも増やす方法は簡単で、ピートモスという用土を水に湿らせて刺しておけば良いとのこと。そして、十分に水をあげていれば、それだけで根が生えて新しい芽が出てくると言うことでした。
比較的大きめのブルーベリーの木でしたが、収穫できるのは1キログラム程度でした。そのため伯父の話のように挿し木をして増やすことができれば、もっとたくさんのブルーベリーを収穫することができるかもしれないと、欲深いことを考えていました。さっそく翌年の冬には剪定した枝木を使って、挿し木に挑戦してみることにしました。ホームセンターでピートモスという用土と、苗ポットと呼ばれるビニール製の植木鉢のような入れ物を買いました。あとは剪定した枝を教えてもらったとおりにカットして、挿すだけ。ピートモスが乾かないように、毎日、たくさんの水をあげました。農家の伯父から教わった通りにしたのですから、準備は完璧にできたはずです。春になって根が生え、新しい芽が出てくるのを心待ちにしていました。もっとたくさんの花が咲いて、たくさんのブルーベリーの実が収穫できて、秋にはこれまでよりも華やかな紅葉を楽しむことができるとほくそ笑んで、毎日、ひたすら無心でたくさんの水をあげ続けました。
予想外の失敗
その時は、たくさんの水をあげることが良いのだと信じて疑うこともありませんでした。毎日、朝晩2回。苗ポットに植えた挿し木に水をあげることが日課になりました。新しい芽が早く出てこないかと心待ちにしながら、とにかく水をあげ続けました。冬から桜の咲く春になっても、新芽は出てきません。春を通りすぎ新緑の季節、梅雨を迎えても緑の芽はまったくでる気配すら感じられません。梅雨を終える頃に、挿し木をよく見てみると、少し茶色が濃くなったようには感じられました。それでも、とにかく水をあげ続けました。梅雨が明け、太陽のまぶしさを感じる真夏が訪れました。それでもまだ、新しい芽は出て来ません。少しおかしいと思い、30個ほどの苗ポットから、1本を抜いて確認してみることにしました。
もちろん、挿し木から根のようなものは、まったく生えていませんでした。挿し木をした時よりも、枝が軽くなって乾燥してしまっているようにさえ感じられました。どうしたものかと考えたすえ、伯父のところに電話して様子を伝えることにしました。詳細は状況を伝えると、電話口からは「枯らしたね」の冷たい一言。私の頭のなかは、真っ白です。
伯父のいう通りに、ピートモスの入った苗ポットを準備して、半年以上も毎日、水を欠かさずあげていたにも関わらず、どうやら挿し木を枯らしてしまったようです。ブルーベリーは雑草のような強い植物なので、挿し木にすれば増やすのは簡単なのだそうです。簡単ではあっても、やり方を間違えると枯れてしまうとのこと。伯父によれば、水のやり過ぎが原因で、根付く、根が生えるように枝が水を吸い上げることができなくなってしまったのではないか、ということでした。ブルーベリーが元気に育つように願いながら、毎日、欠かさずあげていた水が、私の身勝手な量、過度な大量の水のために挿し木をすべて枯らしてしまいました。剪定した枝を挿し木にしたものであっても、生き物であることに違いありません。それを枯らしてしまったことに、大きな罪悪感を感じました。この悔しさを胸に、翌年、再挑戦しました。前年の失敗を反省し、ピートモスが乾かない程度に、適量の水を考えながら過ごしました。もちろん最初の失敗以降は、もう二度と同じことを繰り返すことはありません。そして、今では毎年、10キログラム以上のブルーベリーが収穫できるようになっています。
必要な量を必要な時に適切に与えること
善かれと思って与え続けしまった水。それがかえって良くない結果を招いてしまうということを、この時に実際の体験を通じて学びました。この体験から学んだこと反省して、翌年以降は経験としていかし、今ではたくさんのブルーベリーが我が家の狭い庭を賑わせてくれています。
この体験から私が学んだことは、ブルーベルーを育てることに留まるものではありません。私自身が子どもたちと接する暮らしの中でこそ、この経験は生かされていると考えています。授業の中で必要だと思うことを絶え間なく与え続けることで、子どもたちはきっと大きく成長できるだろうと思うことがあります。しかし、その度が過ぎてしまうと、子どもたちの能力のキャパシティを超えてしまい、かえって害になってしまうことがあるのではないでしょうか。必要な量を必要な時に適切に与えることが、もっとも大切なことだと考えることができるようになりました。そして、必要な時に適切に必要なものを与えること、これこそが、本来、子どもたちに備わっている力を大きく育てるために必要なことではないでしょうか。子どもたちへの授業を作るときに、自戒の念を込めてこのように思っています。そのような意味で、ブルーベリーの育て方という経験から、大きな学びを得たと考えています。
執筆:立教小学校 石井輝義先生
石井先生の文章を拝読して
石井先生は、現在も毎日、学校現場で子どもたちと向き合い、時代の最先端を進むICT教育の先駆者として、日々の実践を積み重ねていらっしゃいます。先生ご自身の苦い失敗経験からの学びを踏まえ、学校教育においても「量を増やして負荷をかけることが行きすぎてしまうと望ましい結果を生まない」という、大変示唆に富む気づきをお示しくださったと感じました。
幼児教室においても、保護者の方がお子様の様子をご覧になり、「これでは足りない、あれもこれもさせなくては」と焦っておられるご様子をよくお見かけします。なんでも先取りして、隣の子よりも少しでも先に立とうとするお気持ちは、もしかすると子どもを追い詰める原因かもしれません。
幼児期には、幼児期にしかできない学びがあります。その時期にふさわしい刺激をお子様が得て、それに対して反応し、行ったり戻ったりしながら内面にじっくりと浸透していく、そのような学びの環境が必要と考えます。お子様の力を真に育むのは、受験対策という矮小化された視野に陥ったメッキ貼りではありません。
保護者の皆様には、日々の暮らしそのものの中にひそむ驚きや興奮を、お子様と一緒に分かち合いながら丁寧に暮らしを積み重ねていくことをお願いしたいと思います。その上で、受験対策の観点においてご家庭によるご対応が難しい部分に関しては、教育の専門家である私どもにも頼っていただければ幸いです。日々の授業や体験活動への参加、セミナー等での保護者の方自身の学びの機会を通じて、お子様がより豊かな成長を遂げることを目指しながら、手を取り合いご一緒に歩ませていただけることを願っております。
小学校受験コース 主任講師 松下健太
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