第11回 保護者課題 ~解説~

・今回で11回目となった保護者課題です。課題への取り組みを重ねていただく中において、段々と質問の意図や、回答の姿勢のようなものが皆さんに伝わってきたのではないでしょうか。「このように書くことだけが正しい」という唯一の正解というものはない中で、回数を重ねていくことと、解説をふまえてお考えいただくことによって、みなさまのご回答が次第に適切な方向へと定まっていきますように願います。

・お母様に宛てた、「お子さんはどのようなお手伝いをしていますか。」という質問については、日常的で身近な子育ての取り組みについての記述をお願いしました。面接でも頻出の課題です。

・「お手伝いをさせる意識や基本姿勢」「具体的なお手伝い内容」「お手伝いへの取り組みの様子から考えること」が、回答に表れているようであれば、質問の意図を汲んで回答するという形式に関しては慣れてきていただいていると思っていただき間違いありません。文字量がある程度許される場合には、端的に「○○をさせています」ということだけでなく、意図や背景、願いや思いを書き添えていただくことが良いかと存じます。

・また、この時期には志望校の方向性が見えてきたご家庭も多くいらっしゃることと推察いたします。そうした方は、回答内容に志望校の意識、カラーに合わせた記述が表されてきていることでしょう。「お手伝い」というテーマでも、他者への愛をテーマにしてお書きになる方、自立への意識について書かれる方など、それぞれのご回答に色がついてきているのではないかと存じます。実際の願書作成を念頭に、学校ごとのカラーを意識しながら、ご家庭の考えの表現方法を少しずつ調整していただくことで実践的な練習になると存じます。

・お手伝いは、家庭内での役割を果たすことによって自信や有用感を育むことにつながります。また、習慣化によりその都度言われなくても役割を果たす姿まで導くことによって、自らの力を他に役立てようとする自覚を芽生えさせることにつながります。お手伝いは決して家庭内の雑務の小間使いではなく、家族の一員として果たせる役割を自覚して取り組むことが大切ですので、お子さんが今できること、できそうなことを見極め、機会を見計らい意図的に仕組んでいくことが必要です。
お子さんの様子を細やかに見取り、適切なスモールステップを踏めるように支えながら地道に成長を促していく営みとして、家庭教育において重要な位置を占めると考えます。 
言うまでもなくご家庭の価値観が現れるところであり、言葉でいくら「他者を尊重する人間に」「人のために自らの力を役立てられるように」といったことを言っていても、身近な足下の取り組みが貧弱であると、すぐに見透かされてしまいます。

・上述した視点に立ち、何をさせているか、ではなく、どのようにさせているか(自らするように導いているか)が大切です。洗濯物をたたんでいます、ペットの世話をしています、といったことを羅列するのではなく、その取り組みの中において何に価値を置くことによって、家庭教育、あるいは親子の情愛を深める機会としているのかという点に、表現の力点を置いていただきたいと思います。
これまでの繰り返しになりますが、読み手である先生方が、それを読んだときにどのような印象を持つかを考えて、自分の答えやすいことを言いやすい方法で表現するのではなく、「このご家庭をぜひ本校に迎え入れたい」と思われるような内容となっているか、しかもそれが多くの志願者の中で埋没することのないような一定の印象付けに成功しているか、そうした視点を忘れずに表現していただきたいと思います。

・次にお父様への質問「お子様には将来どのように育って欲しいですか。」についてです。今回のお母様への質問とは対照的に、やや漠然とした、しかも長期的な視野に立つ質問であったために、例年の回答も若干抽象的になりがちです。その一方で、たとえば上のお子さんがいらっしゃるなど実感を伴う見通しをお持ちの方は具体性を持たせやすく、とりわけ受験経験がある方はこうした本質的な質問に対しては考えが固まっている方も多く、ある程度練り上がった文章を組み立てることができているのではないかと思います。

・この質問については、回答の冒頭にて「○○な人に育ってほしいと思います」という書き出しを採用し、その後に考えの背景を述べる論形を取る方が多くいらっしゃいます。形式として、読み手にはわかりやすいものですから、「○○」に当てはまる言葉がよく練られたものであればスムーズに理解されやすい表現形式になり得ます。ただし、「○○」があまりに当たり障りのない内容(自立した子、愛のある子、など)ですと、やはり数多くの願書や面接回答の中で「またか」という印象を与えかねず、その意味では諸刃の剣であることも覚悟せねばなりません。
やはり、書き出しの印象でその後を読み進める際の熱量が変わってくるものですから、このような言いわば「よくある形式」の書き出しの場合には、最初の一言に関しては表現内容である程度勝負していかなければならないでしょう。とは言え、あまりに奇をてらった表現を用いるのも考えものです。小説を書いているわけではないので、読み手の解釈に委ねる要素を一定程度排除し、相手に伝わりやすく、しかもご自身・家庭の考えが個性をもち、かつ説得力ある表現の範疇にとどまるように、加減を考えていただくと良いと思います。

・また、お子様の成長を願うという話題・文脈において、命名にフォーカスを定めた記述が一定数寄せられることがございます。子育ての願いを表現する際に、命名に込める願いを端緒に語るのは願書作成の常套手段とも言えます。その方法がうまくいく場合もありますが、一方で「よくある型」として、他の回答と横並びになってしまっている水準にとどまる恐れもあります。したがって、命名を切り口にする場合には、その後の記述内容について他者への説得力あるものになっているかを振り返っていただきたいと思います。
お子さんの命名にあたっては、どの親御さんも長い期間頭を悩ませ、考え抜いた末にお決めになったものですから、当事者にとっては非常に思いの深いものであることは理解できます。しかしながら、親戚や友人の立場でその由来を聞くことと、入学志願者の中から合格者を選考する立場で聞くということでは、聞き手の温度感が異なることに留意してください。

・合否判定を抜きにすれば、どの方の命名に込められた思いにも、その想いを尊重する前提にて、微笑ましい気持ちで聞くことができるものですが、どうしても評価を下さなければならない現実の中においては、微笑ましいですね、ということで終わることのできない難しさがあります。命名の由来だけで勝負ができるということはなく、誕生時の願いや思いが実際に子育ての中でどのような道筋を刻んできたのかをぜひとも聞きたいところです。思い通りにはいかないことも多い毎日の中で、親としての成長も同時に果たしながら、あるひと時の思いにこだわるだけではなく、これまで動的に変容してきたであろう歩みを明らかにしていただき、その上で現時点の親としての切なる願い・思いを表現していただければと思います。

・さらにこうした「将来に向けて養いたい力」や「これからの社会で必要とされる力」といった観点の質問に対しては、国際化やAI技術の進展などを挙げて、グローバルなプレゼンスの発揮や機械に負けない人間力を磨くことが大切、といったご回答を寄せる保護者の方が寄せられることが本当に多い印象です。もちろん、社会の変化の見通しとしては国際化、AI、情報化、多様性、などといった今日的キーワードがすぐに想起されるでしょうが、それだけでは、多くの志願者の同じような回答の中に埋没してしまいます。私学が築いてきた伝統への敬意、また家庭教育を含む、教育における価値観の不易と流行を意識した、ご家庭ならではの回答が望まれるところです。

・今更のようですが、願書は論文でもなく、私的なエッセイでもなく、入学を願い出るための正式な書類ですので、読み手に理解してもらえることはもちろんのこと、やはり好印象を抱いてもらえるような戦略的な表現が必要となります。これからいよいよ本格的な願書添削、面接練習を行い始める時期となります。学校説明会を筆頭に、学校訪問の機会が増える中で、お礼状を書いたり、現地で感想の記述を求められたりすることも増えてくることと思います。これまでの学びを活かし、学校の先生方がお読みになった際に受ける印象を熟考して、表現を工夫していただくようにお願いいたします。

以上となります。
引き続き、次回の課題もお願い申し上げます。