第12回 保護者課題 ~解説~


これまで繰り返しお伝えしてきたために、ここであらためて確認するまでもなく、願書や面接で問われることの多い質問について、早い段階から回答を言語化していただき、その過程を通じてご家庭の考えをまとめていただくということが本保護者課題の趣旨です。

願書や面接における質問は、そのご家庭とこの先数年、十数年にわたり向き合っていく可能性があることを見据え、ご一緒に歩めそうかどうかを判断するために行われているものですから、「問われていることに対して端的に回答をしつつ、その背景にあるご家庭の価値観・考えを表現する」という点に留意が必要です。

従いまして今回の課題である「長所」「成長」に対する回答として、「うちの子はこういったことができます」「こういった素晴らしさをもっています」といったように、「我が子自慢」に陥ることは、最も避けなければなりません。
と申しますのも、学校としては、愛情深いご家庭に入学してほしいという願いと同時に、我が子への愛情が盲目的に深い保護者に対しては非常に大きい警戒を抱いています。

長い学校生活の中で、時にはトラブルが生じることもあります。そんな時に冷静さを欠き「こんなに素晴らしいうちの子を、こんなに酷い目にあわせて!!!」と烈火の如くお怒りになる方、なりそうな方を避ける、といったことは、かなり優先順位が高い視点です。

冷静に状況を見た上で、たとえ自分たちに落ち度や非がなかったとしても、謙虚に出来事を受け止め、過度の「主張」をしない保護者の方が望まれます。

・面接や願書において、「我が子は、優しいし社交性がある。興味の幅が広く探究心があるし、想像力や知識も豊富。これまでに様々な経験を積み重ねてきて、おまけに運動も得意」と声高に叫ばれても、実態は考査やご本人の様子で判断することですから、一方的な主張だけではほとんどプラス要素になりません。何百通とある願書を前にした最初の段階では、むしろ「このご家庭は、潜在的な不安要素が大きい」という方を、回答内容や文面に現れるご家庭の価値観をもとに外していくほうが優先されることも多くございます。

・さて、お母様に宛てた、「お子様の長所を伸ばすために心がけていることは何ですか。」  という質問についてですが、まず、これは「長所を教えてください」という質問ではないという前提をご確認ください。

・その上で、話題の展開上、長所の具体的な内容に触れる場合には、お子様の性質のどのような点を長所と捉えているかに留意して表現することが必要かと思います。

・たとえば、今回のご回答の中で大変多かったのが、「周りの方との関係性構築やコミュニケーション能力が高いこと」すなわち社会性が高いという点を長所として挙げられた方でした。
決して悪くない着眼点ではありますが、多くの方のご回答を拝見する限り、おおむね半数以上の方が子どもの社会性について述べられている印象です。そのことを考えると、実際の考査において学校の先生方は、志願者の半数の方が「我が子は初めてのお友達ともすぐに仲良くなることができます。もしお友達と意見の食い違いがあった時も、親としてはまず本人の話を聞き、相手の気持ちを考えるように促しています」と同じように語るのを繰り返し聞き続ける/読み続けることになります。

・決して奇抜な点を取り上げましょう、ということをお伝えしたいわけではありませんが、やはり通り一遍の回答では、冒頭に述べたような最初に外す対象にはならないとしても、無難すぎて他のご家庭との差別化にはつながらないでしょう。

・そうした中で印象の良いご回答の例としては、まさに質問に対して正面からお答えくださっている「長所の伸ばし方」に回答の中心軸を置いている方でした。すなわち、むやみやたらな我が子の礼賛ではなく、子どもの良い資質をどのように伸ばしていくかの働きかけ方について、何にどのように留意しているかという点、あるいは、子どもの様子を少し冷静になって眺めて親の方も子どもの実態に合わせて意識を変えていこうとする考え、といったところに力点が置かれているご回答です。

・前者の例では、「本人の頑張りに対して言いたいことがあってもまずは黙って見守ることを心がけている」や「両親が辛い経験を乗り越えた話をして聞かせ、一緒に話し合っている」といったご回答が以前にあり、読む側としても印象に残りました。

・また後者の例では「子の長所と思っていた点も成長と共に変化するもの。過剰な心配をせず、大切な成長過程と認識したい」というような、我が子への期待に溢れる親御様だからこそ感じる苦悩が見えるご回答があり、大変真摯なご姿勢に胸を打たれることもございました。

・可能性に満ちた子どもたちの、現時点での「長所」がいかに優れているのかを声高に叫ぶよりも、むしろ長い目で子どもたちの成長を見守っていく愛情深い姿が望まれると感じました。

・次に、お父様に宛てた、「お子様が成長したのはどんなところですか。」  という質問についてですが、この質問も、根底においてはお母様への質問や、さらに踏み込んで言えば冒頭に書き記したようにご家庭の価値観に行き着く事項かと思います。

・たとえばお子様のご性質に言及する際によく取り上げられる「集中力を発揮できるようになってきた」という様子は、捉え方によっては「周りのことが目に入っていない」ということと表裏一体かと思われます。これは諦めない、粘り強さ、といった資質にもつながることかと思いますが何かにこだわる様子は自我がしっかりとしてくる幼少期には、定型的な発達過程の中で自然と見られる姿でもあるので、表面に見える姿だけをとりあげて評価することはやや性急な側面もあります。

・お母様の課題への解説同様、やはりどのようにしてそうした成長を導こうとしているのか、現在の姿をさらにどのようにして支えていこうとしているのか、といった視点は常に持ち合わせていただきたいものです。

・子は親の想像をはるかに上回る成長した姿を見せてくれることが子育ての喜びでもあるかと思いますが、とは言え親による意図的な教育やしつけ、さらにはそれらドライブしていく熱情や愛情、願いといったものが親子の関わりの中にいかに見られるかを期待しています。

・また、身近なことを取り上げて「親子で一緒に取り組んでいます」といったある種ほほえましいエピソードもご家庭の様子が見えて望ましい面もありますが、あまりに卑近すぎる事柄の場合には温度感の落差を感じることがあるので、取り組み内容に関しては一定の納得感や品位のあるものにしていただくよう心がけていただくと良いと思います。ほとんどの方のご回答に関しては、そういった「ずっこけてしまう」ような卑近すぎる内容はないものの、限られた字数の中で「あれもできる、これもできる」と列挙してしまう方もいらっしゃるので、中心を定めることへの注意は必要です。

・限られた字数・時間の願書や面接では、伝えられることに限度がありますので、実際に該当事項がいくつかあったとしても絞って表現するようにお気をつけください。

・その一方で、ご家庭にとって、ご家族にとっても何か大きな出来事が生じた際に、それをきっかけとして子の成長を考えるといったご姿勢を表現される回答には、前向きで建設的なご家族のご様子に好感を持つ材料となります。

・いずれにしても、望ましいと考える成長の内容(人間的な価値を何に置くか)と、それを支えるご家庭の姿(ご姿勢)が、等身大でありながらも一定の理想を高く持ち、親子で共に向き合って行こうとされるご様子には良い印象が抱かれることと思います。

以上となります。
引き続き、次回の課題もお願い申し上げます。