第7回 保護者課題 ~解説~

・今回も課題のご提出、ありがとうございました。年度末のお忙しい時期にも関わらず、ご協力をいただけましたこと、感謝申し上げます。

・お母様に宛てた、「お子さんが好きな絵本」について教えてくださいという質問について。絵本のタイトルを挙げるだけでなく、お子さんがなぜその絵本が好きなのかを表現してくださった方には、設問の意図が一定程度伝わったのではないかと思います。

・一方で、なぜその絵本を我が子に与えたのか、という親の視点が表現されていない方には、設問の意図があまりが伝わっていないのではないかと危惧します。もちろん、お子さんが自分の関心で手に取った絵本である場合、あるいは幼稚園や保育園などで接したことで知った絵本、という場合もあるでしょう。とは言え、この質問は子育てをしている親御様に向けた質問ですので、「親がどのような願いを持って、一定の価値を含む絵本を子に与えようとしているのか」をも尋ねたいと考えていただくと良いかと思います。

・また、その願いをお子様がどのように受け止めているのか、も確かめたいポイントです。絵本は、子どもにとっていわば間接経験であり、具体的に事物に触れる直接経験とは異なるあり方で、内面世界を広げていくものです。子どもが内面を深め、世界を認識していく上で大切な窓となりうるものですから、「結果的に子どもがこのような本を好んでいる」という受動的(場合によっては消極的)な見取りだけでなく、親としての能動的(積極的)な関わりを表現していただくと、ご家庭の姿がより明確に見えるものです。

・実際のところ、お子さんの好きな絵本について尋ねるのは定番の質問です。また、近年の考査では面接の中で、「お子さんに絵本を読み聞かせている様子を見せてください」と言って、一定の時間が与えられる考査もあります(東京農業大学稲花小学校) そこで見ているのは、「どの本を選んだか」ということだけではなく「なぜその本を選んだのか」「その本を通じて、親子の関わりがどのように深められているのか」「その本を通じて、子どもにどのような世界の広がりをもたらそうとしているのか」という姿勢が観察されていると思われます。

・また、幼児にとっては勧善懲悪ものがたり(必ず最後にバイキンマンがアンパンマンに懲らしめられるような……)は理解しやすいものではありますが、なんでも”わかりやすい”図式に当てはめることの功罪については意識を高めておく必要もあるかもしれません。これは私の個人的な所感ではありますが、わかりにくいものを、わかりにくいまま伝える、ということも時には必要かとも考えています。明確な結末が描かれていない、あるいは意味不明な展開が続く、こうした絵本も世の中には割と多くあります。けれども、そうした作品の中にこそ、一義的で定型的な価値づけを超えた、豊かな深まりがあるようにも感じられます。

・補足として、「必ず寝る前の読み聞かせをしています」「絵本を通じて会話をしています」「今後も絵本を大切にしていきます」というような記述は多くの方に共通するものですが、子育てに意識を高く持っておられる受験層の方々にとって、これらはいわば当然の日常・意識ですから、字数制限が厳しい中では、敢えて宣言しなくても良いとは思います。(強いていえば、「毎朝、顔を洗います」とか「挨拶を大切にしています」と同じ程度の事柄で、言うまでもなく当たり前、のような印象を受けます) 

・次にお父様への質問「お子さんの伸ばしたいと思う点」についてですが、ある程度答えやすい質問であったのではないかと思います。なぜならば、「伸ばしたい」というのは、子育ての願いそのものであり、またお子様への期待や愛情に基づく温かい眼差しを前提とした質問であるからです。実際のところ、この設問に対するみなさまのご回答を拝読しても、根本的に引っかかるということはないことが多いです。一方で、表現の工夫が必要となることが多いのも事実です。

・そのうちの一つが「我が子自慢」に陥らないでいただきたいということです。お子さんの望ましい姿を愛情をもって表現することは否定するものではありませんが、基本に立ち返って謙虚さを忘れないことも同時に大切です。「伸ばしたいと思う点」とは、長所の伸長のみならず課題点の改善という視点も含み置くものです。親という唯一無二の存在であるからこそ、主観的で最終的な庇護者であるということは当然ながら、やはり客観的な視点を持ち合わせて我が子の現状をしっかりと見取りアセスメントを行うことは大切です。

・そのうえで、今後の成長に向けて前向きで建設的な見通しを立て、日々の育児に落とし込んでいく姿勢が問われます。「うちの子はこういった素晴らしい点を持っているので、今後もそれを伸ばしていきたいと思います!」というのは、確かに質問に対する端的な回答であることは間違いありませんが「それは素晴らしいことですね…」という感想を聞き手(読み手)に与えはしても、それ以上の話題の展開については沈黙を生んでしまう恐れがあります。長所も課題も、いずれについてもしっかりと受け止めた上で、親としての意識をどのような期待として表現していくかが問われています。

・また別の視点からのご助言として、慶楓会のお父様方には当てはまらないこととは思いますが、あまりに盲目的な愛情(特にお嬢様に対するお父様の視点)については、学校側も一定の警戒感を示すこともあります。すなわち「うちの子に限って」というような我が子への過信や、トラブルの際にも「大切なうちの子になんということを」という客観的な判断の欠如が透けて見えることもあり、一歩引いて冷静になることができるか、疑問視されかねません。
先ほど述べた謙虚さにも関わることですが、やはりまだまだ未熟な子どもであることを意識の中に常に置いておき、「良いところ」と思うところもその裏返しの現れ方がありうることも想定する必要があるかと思います。「思いやりのある優しい我が子に限って、そんなことはあり得ない」と思うような出来事も、今後の子育て、特に小学校生活の中で子ども同士の関わりの中では必ず出てくるものです。そうした時に、盲目の愛情は時に大きな危うさをはらみます。

・また、これは繰り返し述べてきたことですが、学校側は教育のプロとしての矜持を持っているので、あくまで教えを請う姿勢を貫いてください。自分達の成し遂げてきたこと、現在のお立場などは一旦脇に置いていただき、白紙の状態で臨んでいただければと思います。特に教育に関する理論や理屈は、問われないうちに振りかざすことのないようにして、教育のプロたる先生方がお聞きになった時にどのような印象を持たれるか、釈迦に説法を常に意識していただければと思います。

・以上の点から、今回の回答については、熟考が伝わってくる文章と、答えやすい質問であるからこそのやや浅さを感じさせてしまう回答とに、分かれてしまう傾向があります。お忙しい時期かとは思いますが、改めて保護者課題につきまして、お取り組みへのご協力の程をお願い申し上げます。

以上となります。
引き続き、次回の課題もお願い申し上げます。