第15回 保護者課題 ~解説~

・今回がいよいよ最終となりました。皆様との濃密な日々の充実を改めて実感しております。

・最終回の課題は、やはり最終回にふさわしい内容で、と考えての発題を行っております。そのため、母親の課題、父親の課題のいずれもが、志望校に対する思いや考えの中心部分を問うものでございました。

・その観点で申しますと、この期に及んで細かい言葉尻を捉えての良し悪しを論じるつもりはあまりありません。いずれの設問につきましても、それぞれのご家庭にとって、最も中心的なお考えを表現いただいたという認識でございます。

・したがいまして、今回に関しては、母親への解説、父親への解説、と分けることについても、もはや必要ないと考えております。その前提にて、以下の解説内容は、ご両親様のいずれにも宛てた内容としてお読みください。

・はじめに、今回の課題に対するよくあるご回答についてのご助言をいくつか申し上げます。

  • あまりに身近すぎる例だけに終始することのないように気をつけてください。子育てという長期的な視野に立って取り組む人生の課題について、あくまで遠路を見渡すような広い視野に基づいた上で、身近なこと、日々の些細な出来事に目を向けてください。
  • 論文調にならないように気をつけてください。理詰めでどうこうする世界観ではないことをご理解の上、お仕事におけるプレゼンとは意識を分けてお考えください。読むのは、小学校の先生です。
  • 言葉遣い、表現など、学校側を尊重する姿勢・態度が見えるように気をつけてください。ご自身、我が家、といった主語で語ることだけに終始せず、学校の教育活動が第一であるということを肝に銘じてください。

・例年、ごく一部の方については、上記のような点が目につくことがございます。その一方で、多くの方のご回答には、これまでの保護者課題、あるいは面接練習といった場で、当会からお伝えいたしました視点を文章の中に織り込んでいただけていることと存じます。ご助言を真摯に受け止めてくださる方が多く見えたことを嬉しく存じます。

・もう一つ、全体を見渡したときに、共通する懸念としては、短い文字数の中ですからやむを得ないこととはいえ、どうしても記述に偏りが生じうることです。本番の願書作成ではバランスを取りつつ、家庭教育のことだけ、家庭の背景だけ、学校への想いだけ、といった一面的な記述にならないように試みていただきたく存じます。

・願書や面接においては、ご家庭の「強すぎる」こだわりがあまり良い結果を産まないことがしばしばございます。その一方で、家庭の色が全く見えないような上滑りの内容になってしまうと、多くの志願者の中で埋没してしまいます。

・「この家庭であれば6年間(または学園・学院などの一貫教育において)、安心して一緒に歩めそうだ」と思っていただけるように、先生方の立場に立ち、読み手・聞き手の安心感を誘う内容を心がけてください。

・保護者課題は、面接や願書を想定した質問ではありますが、まずはこれからの時期に皆様が目の前の取り組みとして力を注ぐ願書には、以下のような内容が盛り込まれていることが必要です。

  1. 明確な家庭の教育方針、または子育てにかける思い
  2. 教育方針に沿った具体的な日々の取り組みや生育歴におけるエピソード
  3. 学校の教育や建学の精神、歴史等への深い理解
  4. その学校でなければならないという、明確な理由
  5. 信仰や宗教意識(宗教校の場合)
  6. 入学を願い出る謙虚で真摯な姿勢

・また、身元を明らかにするという意味で以下のような内容も重要です。

  1. 卒業生や関係者である場合は、そのつながりの内容
  2. 保護者の社会的な立場、経済状況

・学校側としては、いくら優秀な子どもの姿と、盤石な家庭背景があったとしても、合格後に辞退されてしまっては困ります。絶対に辞退しない家庭、仮に複数の学校に合格した場合でも第一志望校として入学する意思のある家庭を望んでいます。願書を読んでいて、「これは他の学校で書いた願書の使い回しだな」と思われてはいけません。どう考えても、その学校のことしか頭にないと思わせるような、当該学校に即した記述が必要となります。「入学を願い出る」という姿勢、入学が許されるならば末席に謙虚に座らせていただくという慎ましい姿勢が必須です。

・したがって、これまでにも繰り返しお伝えしてきたことではありますが、「学校の教育に共感している」といった、あたかも学校と家庭とが同じ地平に立って「複数の中から選択している」というような姿勢は考えものです。学校を仰ぎ見て、その学校に対する微塵の隙もない信頼と敬服が、とりわけ縁やゆかりの薄いご家庭ほど必要となります。

・そしてさらにこれまでの繰り返しではありますが、社会におけるご活躍のお立場は、入学考査という限られた場においてはいったん脇に置いて、大袈裟にいえば地に伏してへりくだるような心持ちにての記述を心がけてください。入学後、学校からのさまざまな指導について、その都度「私たちはこう考えています」と物申す保護者と思われる恐れは、排除していくことが必要です。

・もちろんこれは、卑屈に陥ってくださいということではありません。喜んで毎日を過ごす明るい家庭であるということを示しつつ、それが我を通す偏狭さに基づくものではない、という姿勢が伝わることが大切です。「学費を払う立場なのだから、どんなことでも言えば、無理をも通すことができる」と考えているのではないか、という疑念を挟まれないように気をつけていただきたく、お願い申し上げます。

・これから本格的に取り組まれる願書においては、想像力を働かせることで、先生方がたくさんの志願者の中から入学候補者を選び出すことの困難を認識しつつ、選ぶ側の学校は「このご家庭と6年間、さらにその先の一貫校においても、共に歩める家庭であるか否か」ということを考えて見定めようとしているということを意識して、自分中心ではない相手意識に立った願書作成をお願いいたします。

・気をつけていただきたいことをたくさん述べてしまいましたが、その一方でしっかりとした学校研究、あるいはご家庭教育に対する深い洞察が見える回答をまとめる力を身につけられた方もいらっしゃるかと存じます。力強い記述における一つ一つの言葉に込めた思いが、読んでいただく先生方に伝わるよう、これらの珠玉の言葉を大切になさっていただき、願書や面接でも活かしていただきたいと、強く念じております。

・文章はよくまとまっていたとしても、面接における応答には慣れていらっしゃらない方もまだいらっしゃるかと存じます。言葉が上滑りに聞こえてしまうことのないよう、特にご入会からまだ日が浅いご家庭の方々なおさらですが、内容をより深く充実したものにするためにも、早めに願書添削・面接練習をご依頼いただくことをお勧めします。

・解説は以上となります。

・今回にて、長かった保護者課題の取り組みも終了となります。とうとう8月、受験の天王山を迎えます。受験の日々、この経験は、長い子育てのうちのわずかな期間ですが、この時期の充実は皆様にとってかけがえのない日々であったと振り返ることができるよう、心よりお祈りしております。