【コラム】なぜ「キャンプ・体験活動」を重視するのか

慶楓会 小学校受験コース主任 松下健太です。

「慶楓会といえば、キャンプ・体験活動!」 ……と、思ってくださっている方の数や割合を調べたことはありませんが、慶楓会の新規入会ご希望者とのご面談では必ず、キャンプ・体験活動(以下、単に「キャンプ」と記します)を非常に重視しておりますことをお伝えしています。なお、慶楓会のキャンプは、幼児教室に併設している、国立・私立小学生のためのアフタースクール「てんげんじこどものいえ」と共催で実施するものが多くを占めております。

「キャンプが子どもの教育に良い影響を与えそうだ」というイメージは多くの方がお持ちであるとは存じますが、「それって本当に受験に必要なの?」という率直な疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか? あるいは、「キャンプにはみんな行くのだから、願書や面接でアピールできるほどの材料にはならないのでは?」というお声も伺ったことがあります。しかしながら慶楓会では、キャンプに行くことが表面的な意味で受験に直結して考査の評価に目に見えるプラスを添えることを期待しているというわけではなく、より根源的な部分においてキャンプのもつ教育効果に確信を抱いているため、創立以来、一貫してキャンプ重視の姿勢を貫いてきました。

今回はこれほどまでにキャンプを重視しているわけを、詳しくお伝え致します。なお、慶楓会においてどのようなキャンプを実施しているかについては、以下のリンク先よりご覧ください。

慶楓会の考えるキャンプ

キャンプといえば、テントを張って、火おこしをして、カレーを作って、キャンプファイヤーで歌ったり踊ったりして……というイメージをお持ちの方も多いかと思います。もちろん、慶楓会のキャンプでもこのような活動を行うことはありますが、実際のところはテント泊に限らず、民宿や青少年施設などの宿舎に泊まることも多く、また活動内容もカレー作りのような野外炊事やキャンプファイヤーはおろか、火おこしさえも行わないキャンプもあります。現に、慶楓会の2大キャンプの一つと言える八丈島キャンプでは民宿に宿泊することに加え、活動の面においてもシュノーケリングなどの自然の中での活動は行いつつも、くさや工場の見学といった文化体験も盛り込むことで現地の文化・風習に触れる機会を設ける一方、テントや火おこしといった「キャンプらしいこと」は一切実施しません。したがって、この活動内容だけを取り上げて見ると、一般的にイメージされるキャンプとは異なる様相を呈していると言えるかもしれません。

実のところ、慶楓会においてはキャンプの概念を幅広く捉えており、その構成要素の例を挙げるならば、以下のような項目となるでしょう。

  • 異年齢集団の活動である
  • 一定年齢以上は、親元を離れた活動である
  • 自然体験・文化体験など、それ自体に体験価値を含む活動である
  • 目的を伴う組織的な活動である
  • 指導者が存在し、安全管理がなされた活動である

キャンプにおいて大切にしている価値観

慶楓会で実施しているキャンプ活動のお知らせをご覧になると、楽しいプログラム内容が盛りだくさんに見えるかもしれません。もちろん、すでに上で述べた通り、それ自体に体験価値を含む活動であることは間違いありませんが、こうした要素を伴う活動を実施する中において、最も大切にしている価値観のひとつが

生活を中心に置く

ということです。

どのようなキャンプであっても、予定されたプログラムのために、生活の指導を蔑ろにすることはありません。

自分の持ってきた荷物の整理や公共のお風呂の使い方、宿舎における布団の上げ下げなど、基本的な生活習慣や生活技能の指導に注力し、幼児の未熟さゆえにたとえ当初は不十分であったとしても、生活を意識しながらキャンプの時間を過ごす中で、次第に生活に根ざした力を伸ばしていくことができるようにしています。

まずは地に足のついた生活を送ることを基盤に据え、その上で実施するプログラムは、生活に彩りを添え、子どもたちの好奇心を刺激して「もっと知りたい、もっとやってみたい」という意欲を育むものであると位置づけて企画を構成しています。プログラムの楽しさと同時に、その基盤にある生活の重要性について、指導者は常に注意を払いながらキャンプを展開しています。

生活を中心とした指導の意識

キャンプを共にする仲間同士の集団生活を成り立たせるため、みんなで過ごす上での約束事を相互に確認し、子どもたちがその環境の中で自分のなすべき振る舞いについて考え、集団の中の一人として、あるいは自立した個として、何をすべきかを考えながら行動できるように促しています。一人一人が試行錯誤の中で望ましいあり方を目指し、互いに支え合いながら安心して自己を発露することができるよう、指導者は注意深く個々人のアセスメントを行います。また、グループダイナミクスをうまく活かしながら適切な働きかけを行えるよう、見守りの時、介入の時を意識的に区別して、指導の好機をうかがっています。

もちろんお子さんの現実の姿が理想とは隔たっていることも多く、例えば脱いだ服を畳む意識すらないということも、キャンプではよくある有様の一つではあります。しかしながら、一緒に参加している少し年齢が上のお兄さんやお姉さんが、小さい子たちのお手本になるような振る舞いをしてくれることによって、さらには指導者がそうした望ましい姿に敏感に気づき肯定的な声かけを行うことによって、その様子を見ていた小さい子どもたちも「そうすれば良かったのか」と気づけるようにする、こうした場面の連続がキャンプの中には多数あります。いえむしろ、そうした場面を意識的に作り出していくことこそ、キャンプ指導の真髄であると言えるでしょう。

キャンプを通じたメッセージは、指導者の指導観・教育観に依存する

また、子どもたちを望ましい方向へ導こうとするときに、同じ行動の促しでも、受け止める印象が正反対となってしまうようなアプローチがあるので、注意が必要と考えます。例えば、みんなで野外炊事を行った後、片付けが終われば自由時間という場面があるとします。こうした時に「きちんとお片付けをしないと遊ぶ時間はないよ!」という脅しによって支配を試みるのではなく、「みんなで力を合わせて早く片付けて、遊ぶ時間を長くしよう」という前向きな姿勢を促すことこそが大事なのであって、これはひとえに指導者の指導観・教育観に依存しています。指導者の意識から発せられる言葉は、一つ一つの場面においてその場の雰囲気を方向づけるだけでなく、キャンプ全体を通じて子どもたちが受け取るメッセージの在り方を左右していきます。

指導者に求められる資質

子どもたちはその精神的未熟さのゆえに、基本的には自分本位で自己中心的な振る舞いをしがちなものですが、その子どもたちが集団化した際には、何の指導的配慮も介在しなければ混沌とした場が生じるのみです。ところがその集団の中で、適切な導きを行うことができる指導者が存在する場合には、子どもたちの身体的・精神的・社会的な成長を促す場の力学を最大化することが可能となります。そのため、およそ指導者と呼ばれる立場に立つ者には、子どもの発達や教育に関する理論的・体系的な知識、具体的な活動を支える生活や活動そのものに関する技能、そしてそれらを対象に応じて適切な方法で安全に指導できる指導力を備えていることが、欠くべからざる資質であると言えます。

慶楓会では、日常的に子どもたちの指導に当たっている小学校受験コースの主任みずから、キャンプの指導においては現場を統括するディレクターを務め、企画から指導までの一貫した体制を担保しています。なお同人は一般社団法人日本オートキャンプ協会の支部理事、指導者養成講習会講師、指導者用テキスト執筆などを務める他、公益財団法人日本キャンプ協会認定キャンプディレクター1級資格保持者として、オートキャンプから組織キャンプまで幅広くインストラクターや指導者の養成を行う傍ら、国内外のさまざまな現場においてキャンプのディレクションや現場指導を行なってきた体験活動指導の専門家であり、これは慶楓会のキャンプが他の団体のキャンプと一線を画す高い品質を保った活動を誇っていることの大きな裏付けとなっております。

したがって慶楓会のキャンプは、単に一幼児教室が「夏なので自然の中の活動をしに行きます」という温度感で実施する”おたのしみキャンプ”というわけではなく、もちろん楽しいことは大前提として、その中にも自立への基礎を養う要素が意図的に配置された、専門家組織による綿密で緻密な計画のもとに実施する教育活動としてのキャンプです。

直接体験こそが、子どもの知性を育み、人格形成を促す

保護者の方とのご面談で、「ペーパーがいつまで経ってもできるようにならないんです」というお悩みをよく伺います。そういうときに申し上げることは、「ペーパーだけやっていてはダメです」ということです。ペーパーは、あくまで代替物。子どもの内面に育まれた、広義の意味での知性を測るため、具体的な場面を紙面上で便宜的に再現し、標準化された形式に則って発せられる質問への応答を見るに過ぎません。ところが、知性のみならず感性、創造性、身体能力、道徳観、人間性といった子どもたちの人格を構成する諸要素は、本来的には直接体験によってこそ、豊かに切実感を伴って育まれていくものです。そしてその直接体験とは、幼児にとって多くの場合、遊びです。大人の視点においてはとりとめのないように思えるような事柄であっても、子どもたちには初めて目にする興奮の対象たりえることばかりであるし、それでなくとも子どもたちはほとんど何でも遊びにしてしまう能力を持ち合わせていることは、みなさま周知のことと存じます。ですから、本来的には子どもたちが遊びや日常生活を通じて身につけることが自然である(広義の)知性を、その身についている程度を測る道具(ペーパー)において学習させようとする構造自体が、むしろ不自然であるということに自覚を抱くべきです。

そのため、ペーパーで身についていないことが判明した概念については、ペーパーの反復練習のみで形式的な知識を身につけさせようとするよりも、その概念の本質を伴う遊びや活動を経験させる中において発達を促していくことが望まれます。理想的には、自然の中で五感のアンテナを張り巡らせながら、のびのびと心身を用いて目の前の事象に働きかけられる環境を用意することが望まれますが、そうとは言っても、現代社会における都市生活においては、そもそも子どもたちの生活環境は人工物によって占められています。さらには、あらゆる危険を先回りして排除することによって、子どもたちが致命傷を負わない程度の怪我や、取り返しのつく失敗を経験する機会がことごとく奪われてしまいがちです。だからこそ、およそ250年も前に得られた「自然に帰れ」という示唆は、より複雑化し、混迷極める現代において、一層の切迫性をもち得ると言えるでしょう。こうした都市の暮らしを前提とした社会を築いてきた大人たちが責任を持って、この時代・この場所に生を受けた子どもたちに対し、意図的・計画的に多様な体験の場や機会を担保していく必要があります。

慶楓会のキャンプにおける安全管理の考え方

なお、慶楓会のキャンプにおいては、安全管理の観点においても、専門の観点からリスクのアセスメントとマネジメントを行なった上で、活動に不要な取り除くべき危険である「ハザード」と、子どもたちの成長発達に必要な許容すべきチャレンジやそれに伴う危険である「リスク」とを区別し、必要以上の危険排除によって子どもたち自身が安全管理能力を磨いていく機会を逸しないように働きかけています。団体活動を行う以上、そうした安全管理の配慮の枠内に子どもたちを置くことは当然ではありますが、それと同時に、不要・過剰な制限を強いることは排し、子どもたちがのびのびと自分の「やってみたい」を追求する姿を見守っていきたいと考えています。

そのような環境を子どもたちの周囲に実現してこそ、いわゆる「生きて働く知識技能」も培われていくものと考えています。

本質を育てることにこだわるからこそ、重視するキャンプ

キャンプが受験に必要かという問いには「受験よりもはるかに広い視野に立ち、子どもの成長発達にとって意義深いものである」という答えをお返ししたいと思います。また、願書や面接のアピールにはならないのではという懸念には、「そもそもアピールするための取り組みではなく、子どもを育てるにあたって大人としての責任を果たす手段である」とお伝えしたいと考えます。

今回の記事で述べたことは、我々の考えている事柄の一端に過ぎません。表面的な受験対策ではなく、本質を育てる教育によって名門校の合格を目指す慶楓会が、キャンプを重視する理由を少しでもご理解いただければ嬉しく存じます。

執筆
小学校受験コース 主任講師 松下健太

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