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【コラム】運動を続けることの大切さ

2023年4月より慶楓会 白金台教室 教室長として勤めております大瀧 伸雄と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

私は昨年度まで私立小学校の副校長を奉職しておりました。そこに至るまでは、公立小学校及び海外の日本人学校の教員として勤め、また教育行政にも携わるなど様々な経験をしてまいりました。教員時には、体育科や算数科において「よい授業」をテーマに研究し、多くの場で研究発表等を行うとともに、「体つくり運動」の普及活動にも努めてまいりました。さらにその間に何十校と特色ある学校を拝見し、助言及び教育への知見を深めてまいりました。

そのような経験から、学校教育では何を目標にして様々な教育活動を行っているのか、その根幹たるものを理解しているつもりです。それは、「知」「徳」「体」の調和のとれた人格を育むことであり、そこは「公」も「私」も変わらないものではないかということが私の考える一つの結論です。

これから人生100年時代と言われ、私たちは予測困難な時代を生きていかなくてはなりません。その中で幼児期から本当に必要な力を育んでいくことが大切ではないでしょうか。では、その本当の力とは何か。それは、入試のためだけではない生活に生きて働く知識・技能や未知の状況にも対応できる思考力や判断力、表現力。そして、主体的に学んでいこうとする力です。

こうした身に付けるべき力をきちんと理解した上で指導していくことは、物事をスポンジのように吸収していく幼児期にはとても大切なことです。そして、そうした本質的な力の成長を意識した教育を幼児期に受けることは、受験の有無に関わらず、必要なのではないでしょうか。ペーパーなどの得点を上げることだけや豆を箸で移動するスピードを速くすることなどのテクニックのみに特化した教育をしても、これからの時代を生きていく子どもたちの将来には重要性をもちません。受験を志すご家庭ですから、教育に熱心なご家庭だと思いますので、本質的なことを分かった上で受験に臨まれることが、より子どもを成長させる上で重要なことではないかと私は考えます。

私たち慶楓会は、幼児教育の先にある学校教育、さらにはその先にある子どもたちのよりよい生き方を見据え、受験だけを目的にした指導からは一線を画している幼児教室です。それができるのも慶楓会の講師陣の多くは元教員だからです。

さて、今回のコラムですが、体育を長く研究し、管理職を経験してきた私の視点から皆様に少しでもお役に立てることはないかと考え書かせていただきました。

テーマは、「運動を続けていくことの大切さとそれが受験にどう繋がるか」ということです。

これは、もちろん小学校受験、強いてはその先の子どもたちのよりよい生き方を見据えての内容であると考えています。

「合格」はいただくもの

先ほど「公」も「私」も目指すべきところは変わらないと申しましたが、違うところはもちろんございますそれは、希望する学校に選んでいただかないと自分たちが望む教育を受けられないということです。私学でお子様を学ばせるためには、希望する学校の教育方針や教育哲学を深く理解し、我が家の子育てをその学校に全身全霊で合わせていかなくてはいけません。ここは「公教育」と大きく違うところではないでしょうか。(私からすれば公立小学校に通うご家庭もそういう思いであってほしいと思うのですが)。言わずもがな名門校とは「名門」と言われる所以があります。その学校で学びたいのであれば、その学校の先生方に選んでいただかなくてはいけません。そして選んでいただくためには、お子様も保護者も、そこまでの力を付けたり、理解を深めたりしなくてはいけませんし、様々な困難を乗り越えていかなくてはいけません。当然といえば当然のことですし、まずは保護者の方が入学させていただくためにどんな困難も乗り越えると「覚悟」をもっているか大事だということですよね。

運動ができる子は勉強もできる

アメリカで小中学生95万人に行った大規模調査があります。その内容は、子どもたちの心肺能力や筋力・持久力・体脂肪率などの総合的な体力調査と、学力テストの成績との関連性を分析したという内容です。その結果、体力調査での成績が高い子どもほど、学業成績も優秀な傾向があることが確認されました。もちろん日本でも同様の研究データはあります。文部科学省が全国の小中学生を対象として毎年実施している体力・運動能力テストと全国都道府県学力テストの結果の関連性の分析です。その結果からも、やはり「運動ができる子どもは勉強もできる」という傾向があることが分かっています。

また、アメリカの大学スポーツにおいては、野球もバスケットボールも、アイスホッケーも大学スポーツで最もレベルの高いレベルのDivision Iに全ての種目でハーバード大学が入っております。さらに同大学は、これまでにオリンピックで過去200名以上のオリンピック選手を輩出している実績もあり、取得したメダル数はなんと100を超えます。

この結果だけを見ても運動ができることと学力が高いことの相関性があることは言うまでもありません。 私も教員時代に体育を教えている時、初めて出会う運動(動き)でも、サッと体を動かせた子は学力が高かったことを覚えています。また、最初のうちはぎこちない動きでもコツをつかみ、自分で練習を工夫して解決できた子もやはり学力は高かったです。逆に算数などの学習でも自分で工夫して何とか解を導き出す子は運動ができる子でした。思ったように体を動かすことができることは学力向上にもつながるのだなと私自身が実感した瞬間でもありました。

勉強は頭でするもの・運動は身体でするもの?

誰もがそう考えがちだと思いますが、人間が運動するときには、脳の様々な部位が活動しています。近年の脳科学の研究では、運動が脳を活性化させ、集中力や記憶力を高め、勉強のパフォーマンス向上に繋がることが明らかになっています。東京大学の深代千之(ふかしろ せんし)教授によれば、「走る」「投げる」「打つ」「跳ぶ」などのいろいろな動作を覚えて脳に格納してスポーツの場面で引き出して使うように、勉強でも同じようなことが起きていると述べています。例えば数学の応用問題を解くときにいくつかの公式の中から適切なものを使って問題を解くことと同じような現象であるということです。そして勉強と運動とは相関関係にあり双方が関係していると。

つまり、運動と頭の良さには密接な繋がりがあり、運動をすると学力も上がり、脳を鍛えると運動能力も上がると言えるのです。

ちなみに運動神経が良い悪いとよく言われますが、運動神経は遺伝しません。そもそも人間をつかさどる神経の中にそのような神経は存在しません。運動神経が良い子は、運動能力が高い子であって、これは子どもの頃に体験した運動の楽しさや興味次第で後天的に伸ばすことができます。

ここまで科学的根拠のあることですから、今すぐにでも運動を始めたくなりますよね。

ただ、ここでお子様に運動させる上で注意しなければいけないのは、「運動しなさい」と強制してしまうことです。これでは絶対と言っていいほどお子様は進んでやりません。やったとしても続きません。かえって運動嫌いを招く恐れさえあります。まだ、生まれて3~5年のお子様に「運動しなさい」と言って、運動をする訳がありません(「勉強しなさい」と同じかもしれません)。

キーワードは「一緒に」「毎日」「少しずつ」

ぜひお子様と一緒に運動をしてください。まずは一緒に散歩でもいいです。「歩く」ことからぜひ始めてみてください。それもできるだけ毎日少しずつ。 もうすでに体操教室に通われている方、バレエやサッカー水泳などで運動をされている方もご家庭ではお子様が続けられるように言葉がけをするとともに、一緒にやることを心がけてみてください。それがお子様の大きな力、自信になっていきます。ポイントは「一緒に」「毎日」「少しずつ」行うことです。

運動考査を通して何を見ているのか

慶應義塾幼稚舎をはじめ、考査内容に運動が含まれている学校は数多くあります。ではなぜ、考査内容に運動を取り入れているのか、皆様はどう思われますか。

多くの学校は、一流の体操選手を育てるために考査内容に運動を課しているわけではないでしょう。考査の課題で逆上がりや○mを○秒で走るなど、高度な技能を求めていることもありません。もちろん何もできないのは困りますが、先生からお話を聞き(もしくは見本を見て)与えられた課題をある一定程度できていることは求められます。

では、運動考査を通して何を見ているのか。それは、その子の身体能力だけでなく、「学ぶ姿勢(態度)」、そして「心」を見ているのだと考えられます。もっと言えばその子の「脳」まで見ている先生もいらっしゃるかもしれません。取り組む姿勢を見ればそれだけではっきりとその子の中まで分かるからです。

体育を専門に研究してきた私からしても運動(体操)する姿を見れば身体能力だけでなく、その子の学びに対する姿勢など大体分かります。指示を聞いて、その通りに運動がビシッとできる子は勉強もできます。当然、学校はそういった子を合格させます。

それに考査時の態度は、授業中に直結すると考えて判定していく学校は多く、入学後、落ち着いて授業に取り組めなさそうな子は、倍率が高い学校ほど「合格」をいただくことは難しいです。なぜなら受験者数が多ければ多いほど、限られた短い時間内でこと細かく点数をつけることは不可能に近いからです。

運動中もその前後でも「目を見て聞いているか」「待つことができるのか」「我慢ができるのか」「お友達を大事にしているか」「楽しくなっても分別がついているか」「何があっても一生懸命に取り組んでいるか」などは必ず見られています。それができていないなとなれば、例えものすごく運動ができたとしても学校としては懸念の材料になると思います。「子どもなのだから少しぐらい」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、人気校は何百人、何千人と受けて数十人しか合格できない狭き門です。やはり見られるポイントに厳しい点がついてしまうと、合格は考えにくいのではないでしょうか。

まずは運動を続けるところから

運動は、毎日きちんと続けていけば体力(筋力・持久力・巧みさなど)がつきます(これは大人の方でも実感してらっしゃるのではないでしょうか)。そして、体力(特に筋力)がつけば姿勢がよくなります。よい姿勢を長く保っていられる子は、集中力も高いです。言うまでもなく姿勢のよいお子様は考査でも先生からよい印象として残ります。集中力が増せば、だらだらと嫌々やる時より身に付くことも短時間で多くのことを習得できます。できることが増えればその子の自信に繋がります。その実感ができればお子様はより学びたいと思いますし、自分から主体的に動くことにもつながるでしょう。

つまり、運動を続けていくことが自信となり、子どもたちは自ら一生懸命取り組むことの大切さを実感していきます。そして運動でついた体力は、「一生懸命やる心」「諦めない心」にも必ず繋がっていきます。入学後も先生の話をよく聞き、大いに学びます。

運動を続けていくことで育まれたよい循環は、ただ単純に運動能力を伸ばしていくだけでなく、これから生きていく上で大切なよりよく学ぶための下地にもなっていくのです。運動を続けていくことは全ての基本となっていきます。もちろん受験に臨む上でもです。

日々、親子で運動(練習)をコツコツと一緒に積んできた子が「合格」に繋がる可能性を高くしていくでしょうし、その先の長い長い道をもより自分らしく生き、人生を輝かしいものにしていくと私は思います。


慶楓会Light主任 講師 大瀧 伸雄

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