【コラム】絵画造形で豊かな心を育む
初めまして。小学校受験年中コース絵画造形クラス担当の伊東春香です。
新年中を迎える皆さんへ、今回は当クラスで大切にしていること、この時期に身につけていただきたいことをお話ししようと思います。
はじめに、私が芸術大学の学生だった頃に出会った一つの文章を紹介します。彫刻家・佐藤忠良の「美術を学ぶ人へ」です。
………私たちの生活は、事実を知るだけでは成り立ちません。好きだとかきらいだとか、美しいとかみにくいとか、ものに対して感ずる心があります………芸術というものは、科学技術とちがって、環境を変えることはできないものです。しかし、その環境に対する心を変えることはできるのです………人間が生きるためには、知ることが大切です。同じように、感ずることが大事です………美術をしんけんに学んでください。しんけんに学ばないと、感ずる心は育たないのです。
佐藤忠良ほか著 『少年の美術』 現代美術社 1980年
当時、美術を学ぶ意味について考えを巡らせながら過ごしていた私は、この文章を知って靄が晴れていきました。
当クラスで大切にしていることもここに書かれています。これから一年、子どもたちは技術を身につけ、たくさんの事柄を知識として頭に入れていくことと思いますが、同時に、ものに感動する豊かな心も育てていってほしいと思っています。年長に向けて、じっくりと感性を磨き、創造力と独創性のベースとなるものを築いていけるよう授業を進めて参ります。
引き出しを増やすことを目標に
当クラスでは、子どもの引き出しを増やすことを一番の目標にしています。引き出しを増やすとは、ただ単純に描けるもの・作れるものを増やすことではありません。ここでは、興味があることを増やすということを意味しています。
電車が好きな子が車両の色と模様を覚え、細部にまで詳しくなるように、興味を持つと観察力が高まります。今まで興味がなかったものでも興味を持ってよく観察すると、様々なものが見えてきて、その美しさや面白さに感動するはずです。
一年後、年中を終えた時に、普段通り過ぎてしまっていた花壇の前で一度立ち止まって花を観察したり、空の色の移り変わりを気にしたり、より多くのものに感動できる心が育っていると良いなと思います。
慶楓会が大切にしているキャンプ等の体験活動は、そういった面からも必要であることに気付かされます。以前、小学生の授業ではありますが、自由に作品を作る課題を出した際、体験活動で行った八丈島を作りたいという子が多くいました。たくさん歩いた後に入った海の気持ち良さや、そこで見つけた生き物、風の匂いなど、五感で感じたことを話してくれました。その話しぶりからは、自然に対する興味が深まり、心が動かされた様子が伝わってきました。その子たちは作品作りにも没頭し、こだわりを見せてくれました。
このように感動した経験は、描きたい・作りたいという意欲へと移り変わっていくのだと実感しました。
興味を持てる授業を目指す
絵画の授業では、人物・動物・植物・食べ物・乗り物等あらゆるものを描く練習をします。その時にも興味を持って描かなければ、絵は記号のようなものにしかなりません。
例えばライオンを描く時、「頭は丸で描く。耳とたてがみと顔を描く。体は大きい楕円に尻尾。4本足を描く。」それだけでも形にはなりますが、ここに、ライオンは筋肉が発達していて早く走れることや、前足と後ろ足の形が違うこと、鹿など他の動物との体や顔の違いを示します。すると、自主的に図鑑で形を確かめ、他の動物をどんどん調べようとします。柔軟な子どもたちは、少しのきっかけを与えるだけで興味を持ってくれます。
人物を描く時もそうです。子どもたちにとって身近な、家族をテーマにすると、前向きな姿勢で授業を受けてくれました。手を挙げて「おーい」と呼んでいるポーズを練習する時、呼ばれているのは家族の誰だろう?という問いかけをすると「この間お姉ちゃんと公園に行った時にこっちだよって呼んだよ」「お買い物に行った時にお父さんがいなくなっちゃって、皆でおーいって呼んだんだよ」と、実際にあった話をしてくれました。ニコニコした顔や少し困ったような顔、今にも話し出しそうな表情の人物を描くことができました。
授業の後には、本や動物園で動物を見た時、また、手を挙げている人を見た時、描いたことを思い出し、より興味を深めてくれるでしょう。そして一段ずつ、引き出しが増えていくと良いです。
技術の向上は気持ちを伝えるために
また、心を育むことと同時に、もちろん技術面の向上も図っていきます。これを表現したい!と意気込んで製作に取り掛かっても、クレヨンで描いた物がリンゴなのかトマトなのか分からないものになってしまったら、紙を切るのに時間がかかって製作の途中で終了時間が来てしまったら、たとえ発想が良かったとしても、見る人に気持ちを伝えることはできません。技術面においても、子どもたちが育んできた感性を表現することを一番の目的として、練習していきたいと思います。
絵画造形の授業は、技術面に限らずですが、楽しく行うことが一番子どもの力を高められると考えています。特に今の時期は、気持ちに余裕を持って学ぶことができるのが良いところで、絵画造形って面白い!と思えるような体験をしてもらいたいと思っています。
当クラスでは、絵画の技法体験を約15種類、カリキュラムに組み込んでいます。染色、デカルコマニー等絵具を使用したもの、クレヨンでの引っ掻き絵、墨絵の製作等を行い、出来上がったものをまた造形の課題に使用したりもします。受験対策にならないのではと思われるかもしれませんが、この技法体験は、楽しみながら色彩を学ぶことができ、豊かな絵画表現へと導いてくれます。そして新しいことに挑戦すると成功体験となって蓄積され、自信と心の成長にも繋がっていきます。
おわりに
子どもたちは、ご両親と話したことや面白かった出来事、家族で行った場所など、ご家庭での話をよくされます。
いかに家族との思い出が大切で心に残るのかがよくわかります。
ご家庭でも、例えばデザートのフルーツを食べる前に少し観察する時間を取ったり、幼稚園への通園時に一緒に建物の窓の数を数えてみたり、ほんの小さなことで良いので、心を育てる一歩として、様々なことに目を向けさせてあげてください。
一人一人の興味に寄り添い、豊かな心を育てていきたいと思います。
実りある一年を一緒に過ごしましょう。
執筆
慶楓会 小学校受験コース 絵画・造形講師 伊東春香
このコラムを最後までお読みになり、早速行動を開始したい、全ての分野における専門的な対策を始めたいという方は、10月28~30日に実施される「年中・年少体験会」にお越しください。慶楓会の全クラス(総合・絵画・体操)を30分ずつ無料でご体験いただけます。
その他、志望校や考査内容等に関するご相談も随時受け付けますので、まずはお気軽にお問い合わせください。一、二年後、ご家族の努力が実を結びますよう、心よりお祈り申し上げます。
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