【コラム】願書作成上の留意点 2026年度入試対応版

こんにちは、小学校受験コース主任の松下健太です。
小学校受験において願書は、合否を左右する非常に重要な要素となります。入学手続きのための事務的な書類というわけではなく、長い歴史と伝統を持つ学校に対して、お子さまの入学を願い出る「志願の書」です。この書面を通じて、ご家庭の教育姿勢や価値観を学校側に伝えることになる、重要な媒体と言えます。
とは言え、特に初めて小学校受験に臨むご家庭にとって、何をどのように書けばよいのか迷われることでしょう。
願書の良し悪しだけで、合否の全てが決まるわけではありませんが、数百通の願書の中から「この家庭に会ってみたい」と思っていただくための第一印象を決める重要な役割を担っています。そこで本コラムでは、初めて願書を書かれるご家庭が陥りがちな誤りを避け、学校側の心に響く願書を作成するための具体的な留意点をお伝えします。
願書の本質を理解する
願書とは何か、これを正しく理解することが、あらゆる願書作成の出発点となります。百戦錬磨の先生方にとって、通り一遍の文章が綴られているだけのつまらない願書は、家庭に好印象をもっていただくどころか、マイナスの印象を与えてしまう恐れさえあります。
「願い出る書」としての本質
願書はその名の通り、「入学を願い出る書面」です。ビジネス文書でも論文でもなく、学校に対して謙虚に入学をお願いする文書であることを常に意識しましょう。親の立場から見れば「子どもをどの学校に入れるか選ぶ」という面もありますが、願書においては「選んでいただく立場」に徹することが基本です。
願書を通じて伝えるべき要素は、実のところ単純化してまとめることはできません。それは、ご家庭ごとにその学校との関係性の深さ、家庭教育の方向性、学校の理念が異なるからです。
そういった中でも、多くの方にとって「書くべき要素」として当てはまりやすい事項には、次の三つの例が挙げられます。
- お子さまの人となり:性格や特徴、興味・関心、日常生活の様子など
- ご家庭の教育方針・価値観:どのような子に育ってほしいと願っているか、何を大切にしているか
- 志望理由:なぜその学校でなければならないのか、何に敬意を抱いているのか
これらを有機的につなげながら、一貫性のある「物語」として紡いでいくことが求められます。
間違っても、「複数の学校を並列に並べた上で、メリットデメリットによる星取表の中から選びました」というような発想に陥らないように気をつけてください。
形式面での留意点
文章の形式を、読みやすいものとして整えることはまず基本です。この形式は、内容を支える土台とも言えるもので、普段から子どもたちに、望ましい言葉遣いや作文の指導を行なっている先生方にとって、形式の面から破綻しているような願書は、その時点でかなりの悪印象となります。まずは基本的な形式を守れるよう、以下の留意点を押さえましょう。
文字と記述の丁寧さ
一部の学校を除けば、願書は手書きが原則です。書道家のように美しい字である必要はありませんが、丁寧な楷書で書くことが大切です。乱雑な文字は、誠意や注意力の欠如と捉えられかねません。
- 楷書で、一字一字丁寧に書く
- レイアウトは、読みやすさを最優先する
- 書き損じに備え、予備や練習用の願書を複数部用意しておく
誤字脱字・敬称のチェック
誤字脱字、特に学校名や役職名の誤りは致命的です。以下の点に注意しましょう。以前に某有名校の新入生に対する説明会において、「今年の願書は特に字の間違いが多く、創立者の名前についても○○○○を○○◎○のように書いているものもあり、……」といった話がなされたこともあります。
- 「校長」「部長」「舎長」「科長」など、役職名の正確な把握
- 「御校」「貴校」などの敬称の一貫した使用
- 複数の目でチェックする(可能であれば、幼児教室の講師などの専門家にも見てもらう)
読みやすい構成と視覚的配慮
文章の構成や視覚的な読みやすさも重要です。できる限り詳しく書こうという思いで、虫眼鏡を通さないと見えないような細かい字で書き尽くそうとする方もありますが、実際には適切な大きさで、読みやすい文字を書き連ねることが大切です。
- 一文は短く、簡潔に
- 適切な段落分けと改行を心がける
- 枠内での余白バランスを整える(上下左右に適度な余白)
- 全体のボリュームを均等に(極端に詰め込んだり、空きすぎてしまったりしないようにする)
内容面での留意点
大前提の形式が、美しく整った上で大切なのは、当然内容です。願書には、学校に対する理解の深さと家庭の価値観が表れます。内容面で注意したい、重要なポイントを解説します。
効果的な構成
願書は「はじめ」「なか」「おわり」の三部構成で考えると書きやすくなります。
【はじめ】
冒頭では、志望理由と子どもの将来像を簡潔に述べます。
「自ら考え、多様な価値観を尊重しながら社会に貢献できる人間に育ってほしいという願いから、長い伝統の中で人格形成を重んじていらした御校の教育に深い敬意を抱き、志望いたしました。」
【なか】
本文では、子どもの個性や家庭での具体的なエピソードを、志望理由に関連づけながら記述します。単なるエピソードの羅列ではなく、そこから見える子どもの特性や家庭の価値観が伝わるように工夫しましょう。
「息子は幼い頃から図鑑を眺めることが好きで、特に宇宙や生き物について知ると、友だちや家族にも嬉しそうに話す姿が見られます。知る喜びを他者と分かち合いたいという気持ちが芽生えているようで、この芽を御校の豊かな学びの中で大きく育てていただきたいと願っております。」
【おわり】
結びでは、学校への敬意と協力姿勢を示し、簡潔にまとめます。
「御校の方針に従い、末席にて親子ともども学ばせていただきたいと願っております。御校のご発展、教育活動の充実のため、お役に立てることには喜んで全力を尽くす所存です。」
学校研究の深さを示す
表面的な学校理解にとどまらない、研究の深さを示すことが重要です。その際には、学校案内やウェブサイトの言葉をそのまま引用せず、自分の言葉で咀嚼して表現することが大切です。どこかからのコピペは問題外ですが、言葉の切り貼りにならないようにしながら、説明会や教育関連書籍からの学びを盛り込むことが必要です。また、その学校特有の教育理念や精神について、いかに深く理解しているかを示すことが重要です。用語を挙げるだけでなく、その考え方に沿う家庭教育の実践が具体的に見えることが説得力を強めます。
学校の種類に応じた内容の調整
また、学校の種類や特質(ミッションスクール、共学校など)によって、強調すべき点は異なります。
ミッションスクールの場合
信仰の有無よりも、キリスト教的価値観(愛、奉仕)に基づいた考え方を示すことが大切です。家庭として何を物事の考え方の中心に置いているのかを意識し、日常生活における家庭教育の具体的な実践例を挙げるようにしましょう。特にプロテスタント校では、神様の愛のもとでその愛を他者にも伝え広げていくことを喜んで生きる姿が望まれます。カトリック校では、秩序を重んじ、敬虔な生活を通じて共同体の中で自らが果たすべき役割を模索する慎ましい振る舞いが期待されます。
「娘は就寝前に『神さま、今日も一日、守ってくださりありがとうございました』と祈ることを習慣としています。目に見えなくともお守りくださる愛情深い神さまへの感謝を抱く子に育つことを願っております。」
共学校の場合
ほとんどの方が「主体的な行動」「国際社会でも活躍できる力」「困難にも挫けずやり抜く粘り強さ」「優れた仲間との切磋琢磨」など、紋切り型の同じようなフレーズをお書きになります。たとえば子どもの主体性や協調性といったことを記述しようとする際にも、そのバランスを示す「自分で考え、判断する力」や、「他者と協力する姿勢」を示すエピソードといったものを具体的に書くことで、ご家庭独自の色を適度に出しながら表現することが大切です。ここで適度にと述べたのは、私学において堅持されてきた伝統や規律を尊重することが重視されるためです。自立した人格形成への期待を表現するとともに、それが悪目立ちすることがないようにしましょう。
「息子は公園の砂場遊びで、自分のイメージを形にすることに没頭する一方、友だちから『一緒にしよう』と声をかけられると嬉しそうに輪に入り、互いのアイデアを取り入れて遊ぶ姿が見られます。個性の追求と集団での価値創造を大切になさる御校の教育の中で、息子の資質を豊かに伸ばしていただきたく志望いたしました。」
避けるべき願書パターン
ここまでのお伝えとは対照的に、願書作成において、特に避けるべき記述方法や、記述内容というものもあります。ここではその典型的なパターンをご紹介します。
論文調・業務提案型願書
ビジネス文書や論文のような書き方は避けましょう。こうした書き方は、特に父親が書く場合に陥りやすい傾向です。
NG例
「我が家の家庭教育と貴校の教育内容を鑑みて、我が子の将来に有益であると考えるので入学を志願する。その理由は以下に示す通りである。第一に~、第二に~、第三に~。以上より、貴校に入学させることが我が子の将来にとって最善であることは明白である。」
問題点
- 尊大な印象を与える
- 学校文化への敬意や理解が感じられない
- 親の論理が前面に出て、子どもの姿が見えない
理論的な説明は最小限にとどめ、学校への敬意と謙虚な姿勢を示しながら、子どもの具体的な姿を中心に据えるようにしましょう。
卑近すぎるエピソード依存型願書
誰もが期待するような当たり前の行動や、日常的な些細なエピソードのみを羅列することは避けましょう。
NG例
「娘には優しい心が育っています。先日も、電車の中でお年寄りに席を譲りました。また、いつも弟の喜ぶ絵を描いてあげています。」
問題点
- 当たり前のことを特別なことのように書いてしまう
- 家庭の教育方針や価値観の深さが伝わらない
- エピソードの価値づけが不十分
エピソードそのものは大事ですが、そこに込められた家庭の価値観や、子どもの内面の成長に焦点を当てましょう。また、エピソードを選ぶ際には、その学校の教育理念と関連づけられるものを選ぶことが重要です。
学校の文言コピー型願書
学校案内やウェブサイトなどの言葉をそのまま引用した願書は、その学校特有の教育への深い理解や熱意が感じられません。
NG例
「貴校の『国際社会で活躍できる人材の育成』という教育理念に共感し、志望いたしました。」
問題点
- 表面的な理解しか示せていない
- 個性がなく、他の願書と区別がつかない
- なぜその学校でなければならないのかが伝わらない
学校の理念を自分なりに咀嚼し、どのように理解へと落とし込んでいるか、なぜその理念に惹かれたのかを具体的に記述しましょう。また、その学校特有の教育実践について触れることで、研究の深さを示すことができます。こうした点は、出身者のほうが自分自身が受けてきた教育を鮮やかにイメージできるので、全く関係性がない方に比べると有利に働くところです。
「我が家の方針と一致」型願書
学校の教育方針と家庭の価値観の一致を強調しすぎる願書も問題があります。
NG例:
「御校の教育方針は、我が家で大切にしている価値観と完全に一致しています。」
問題点
- これから学ぼうとする身としての謙虚さに欠け、尊大な印象を与える
- 歴史ある学校の教育理念と自分の価値観を同列に置いている
- 「選んでいただく立場」を忘れている
「一致している」という表現ではなく、「敬意を抱いている」「学ばせていただきたい」などという謙虚な姿勢を示しましょう。学校の教育方針を仰ぎ見て、それに向かって家庭でも全力で努力していきたいという姿勢を表現することが大切です。
願書作成の実践ポイント
願書作成を成功させるには、早めの準備と家族間での対話、そして専門家の助言が欠かせません。まず、準備は遅くとも出願の1〜2ヶ月前から始めるのが理想的です。単に文章を書く時間を確保するということだけでなく、学校への理解を深めるための説明会への参加や資料の読み込み、さらに何度も書き直すことを前提とした余裕のあるスケジューリングが求められます。
また、願書作成は家庭の価値観を映す鏡でもあります。父母で「どんな子に育ってほしいか」をじっくり話し合い、子どもの日常の様子を振り返ってエピソードを拾い集めることが、説得力ある文章につながります。なぜその学校を志望するのかを家族で共有し、言葉に落とし込む時間も大切にしたいところです。
さらに、かならず専門家の視点も取り入れましょう。願書添削に慣れた第三者からの客観的なフィードバックは、読み手に響く文章づくりに大いに役立ちます。学校ごとの傾向に即した内容の調整や、形式面だけでなく内容の深さを補強するアドバイスを得ることができます。
その際に注意したいことは、大人数の生徒を抱えている幼児教室に頼んでしまうと、流れ作業のように、誤字脱字のチェック程度で流されてしまうことです。その子の性質やご家庭の背景をよく理解している、距離感の近い講師が親身になって支援してくれるところに頼りましょう。
慶楓会では、キャンプへの参加など、子どもの実態をごく身近で直接に支援している講師が、そのご家庭らしさを十分に引き出すような願書添削を承っています。添削サービスは会員の方のみとなりますが、ご入会前の方であっても、慶楓会での学びを真剣に考えてくださる方であればご面談を通じてご相談に乗らせていただきますので、お問い合わせください。
おわりに
願書作成は、親子の歩みを見つめ直し、将来への願いを言葉にする貴重なプロセスです。小学校受験において、子どもへの愛情と将来への期待を学校側に伝えるこの大切な機会を、軽く見ることは絶対にやめましょう。
お子さまを学校に託したいという親の想いを込めた「一筆入魂」の書、それが願書です。形式や型に囚われすぎず、そのご家庭にしか書けない唯一無二の願書を目指していただければと思います。そして、「この家庭に会ってみたい」と先生方に思っていただける願書を、自信をもって提出することが、合格への第一歩となるでしょう。
皆様の願書作成が実り多きものとなり、お子さまの未来への扉が開かれることを心より願っております。
執筆
慶楓会 小学校受験コース 主任 松下健太
慶楓会では、元私立小学校教員を筆頭とする優秀な講師陣が、私学の文化を熟知した上で、表面的な取り繕いではなく本質的な力を育てることにより受験に臨んでいきます。非常に高い水準の知見が集積されており、その知見をご家庭と全て共有することで、保護者の皆様は、正しい道筋に沿って安心して受験対策を進めていくことができます。
非常に高い専門性を備えた指導者のいる少人数教室「慶楓会」に、一度足を運んでいただければと思います。
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