【コラム】受験は苦行ではない -2-

前回のコラムにて、受験本来の目的を見失い、その手段である競争の中から生まれる「比較」こそが苦行感の原因であることを述べました。本来であれば、我が子の幸せを願いその成長発達のためのより良い環境を求めて受験を志したはずが、その過程において我が子と他の子とを比べてしまい、できないことにばかり目が向いてしまう上、自らとは異なる人格であるはずの我が子に対し、親の努力が直接成果となって現れない苛立ちを募らせてしまう、そして受験は苦行と化してしまうということをお伝えしました。

今回は、そのようなものの見方に陥ってしまわないよう、受験を苦行と感じることを予防する手立て、受験が苦行になりつつあるときのマインドリセットについて、お伝えしていきたいと思います。

もくじ

受験を苦行と感じること予防する手立て

本来の目的を見失わない

まずは最も大事な基本原則、「本来の目的を見失わない」ということです。しかしながら、気持ちを揺るがせるような出来事(例:教室で出来る子を見かける、模試の結果が奮わない、など)があると、すぐにそのことで不安定になり、動揺しがちです。そのような時、気持ちが外力によって持っていかれないようにするために、自分にとって一番効く言葉を目につくようにおいておくというような「仕掛け」を準備しておくようにしましょう。

過去、受験をすでに終えた保護者の中には、自分がいつも使っている手帳の表紙や、携帯電話の待受画面などに、「受験は親のエゴ」「○○(子どもの名前)は、もう十分頑張っている」など肝に銘じておきたい言葉を表示しておき、常に物理的に目に入るようにした、という方がいらっしゃいました。

過程を楽しむ

受験準備はすべて(そもそも「すべて」という範囲すら曖昧です)をやり遂げることが目的ではなく、お子さんの成長の一歩ずつを楽しみながら、愛情のある暮らしを送ることがとても大切です。お子さんが初めて歩いた日、初めて言葉を発した日を思い出し、小さな一歩ずつの成長を喜んでいたことを思い出しましょう。鬼の形相による訓練の結果としてボールつきが100回できること、それ自体がそれほどまでに重要でしょうか。できなくても諦めず、1回、また1回とわずかであっても回数を増やそうとしながら、地道に努力を重ねていく姿勢を養い、その結果として自信を育み自己肯定感を育てていくことの方が大事ではないでしょうか。結果だけに意識が向いてしまうと、結果如何によりプロセスの価値までが否定されかねません。結果のみが求められる一部の仕事とは異なり、子育てはその過程それ自体に価値があると考えて楽しみましょう。たとえ一定の成果が現れたとしても、強制、強要、暴力、脅し、恐怖による支配を行うのは、子育てでも、ましてや教育でもありません。

一つのことに集中をする

あれも、これも、と際限なく手を広げていき、世の中の森羅万象全てを網羅することは不可能です。一度に取り組むことは一つに絞り、他のことには目をつぶることも大切です。日常生活に必要なあらゆる知識・技能を、既に身につけている大人にとって当たり前にできることであっても、幼児にとっては一つ一つがまだ「始めたばかり」のことばかりです。同時に複合的な作業や注意力を求めるのではなく、細分化した一つのことに集中をして、小さな一歩の成長にも一緒に喜ぶ姿勢を忘れないようにしましょう。

受験が苦行になりつつあるときのマインドリセット

周りの子が完璧であると思わない

他のお子さんが、たとえどんなに優れたお子さんに見えても、やはり幼児です。家に帰ればわがままも言い、ぐずったり、聞き分けがなかったりする姿は必ずあるものです。我が子もそう、できることもあり、できないこともあり、という姿が当たり前であるということをいつも胸に留め置いておくことです。

親自身の成長機会と考える

受験準備は、忙しい毎日の中で立ち止まり、物事に丁寧に向き合う機会を与えてくれるものです。季節の行事や日本の伝統、身近な草花や動物の生態など、かつて自分が子どもだった頃には生活の中に彩り豊かに溢れていたにも関わらず、大人になり日々の「やらねばならないこと」に追われる中で精彩を欠いていった物事に、もう一度新鮮な驚きで目を見張る子どもの感性に触れつつ接することができる貴重な機会です。自分自身がもう一度それらに触れ、人間としての円熟を図る内面を育てる機会にしていこうと考えてみましょう。

正しさよりも愛情と思いやりを大切にする

真面目でご立派なご両親様ほど、完璧主義に陥って、苦しくなりがちです。子どものすることのほぼ全ては、大人の目には非合理的で、突発的で、こだわりに満ち、意味不明なものです。そもそもが正しさを求めるということ自体が不自然であるという前提に立ちましょう。子ども自身は、自分の興味関心に従っていろいろなことを試しているのです。その試行錯誤の結果、対象や周囲からのにフィードバックによって、善悪や正誤を理解していきます。ですから正しさの物差しを振りかざすのではなく、愛情と思いやりに満ちた慈愛の眼差しによってお子様を見守る姿こそが、親御様にできる最上の支えです。その中で適切な方向づけを行っていく日々を重ねるように考えて、子どものありのままの姿を一旦は受容するというゆとりをもつように、意識をしてみましょう。

許して忘れる

たとえ我が子とは言え、幼児と同じ地平に立って、怒りをぶちまけることは避けましょう。親であるからこそ、子どもの様々な振る舞いに対しても寛容でいる姿勢を忘れないことが大切です。お子さんのしでかしたことでも、周囲から聞こえてくる声であっても、腹に据えかねるような物事にいつまでも囚われていてはいけません。「許す」というのは、相手より精神的に高い位置にいないとできないことです。親としての余裕を示して、あるいは噂に終始する魑魅魍魎からは一歩身を引いて、悪口雑言には耳を貸さず、怒りを水に流し、その後はすっきり忘れてしまうことです。忘れることにも努力が必要ですが、怒りに支配されるよりは自らの人生を有意義なものにできるでしょう。

全てを抱え込まず、気を緩める時間を持つ

理想の子育て・家庭教育を追求している限り、為すべき(為すと良い)事は膨大に増えていく一方です。保護者の方、特にお母様やお父様の一方のみが抱え込むのではなく、分かち合い、外に力を借りることを厭わないようにしましょう。地縁・血縁が強かった時代とは異なり、現代ではご近所様や祖父母の力を借りることが難しいという事情もあるでしょう。家事代行や、手厚い幼児教室のサポートなどをうまく活用して、外注できることは外注をしましょう。時には気を緩めて心身を休めて充電をし、ご両親として本当に力を注ぐべきところに力を集中できるようにしましょう。多少の費用負担は発生するでしょうが、繊細な感性をもつ幼児期の貴重で不可逆な時間に代えられるものかどうかを考えることが大切です。

当会でも、通常授業の他に「受験対応型託児」による家庭学習の巻き取りや、「体験活動」による豊かな体験機会と保護者様自身の時間の確保を行い、保護者の方が時に気を緩め、気持ちを整理できるサポートを行いたいと考えております。

受験を苦行にせず、楽しみに変えられるゆとりを

受験を苦行と感じることを予防する手立て、受験が苦行になりつつあるときのマインドリセットを行うにあたっては、受験は苦行ではなく、子どもの成長を中心に置く楽しい取り組みであるというゆとりのある思いを、意識的に保持していくことが大切です。

抱え込まずに、時には息抜きをしつつ、周囲の力も借りながら、しなやかに受験に向けた日々を過ごしていきましょう。

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執筆
小学校受験コース 主任講師 松下健太

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