【コラム】メッキを貼るのではない、本質の教育を

幼児教室に大切なお子様を通わせてくださる方の中でも、初めから受験だけを目的にした教育を幼児期に行うことに対して心配や不安のお気持ちを抱かれている方は多くいらっしゃるようです。慶楓会では、受験だけを目的にした指導からは一線を画し、お子様の成長の上で、本質的に養うべきお力を育めるよう心がけております。

今回は、お子様にメッキを貼るような上辺の取り繕いではなく、本質的な成長を意識した教育の結果として受験に臨むことの大切さについてお伝えしてまいります。

もくじ

受験に対する懐疑的なお考えと、陥ってはいけない落とし穴

お父様の、ごもっともなご意見

教室にご面談に見えられる方のうち、お母様が主体となり、お父様がいわば「連れてこられた」というような立ち位置でみえられる例があります。

その場合、お父様はそもそも受験に対して積極的でなく、むしろ反対であるという思いすら抱かれていることもままあります。よくお話を伺ってみると、「小さいうちから受験勉強ばっかりさせても仕方ない」というわけで、ご自身が育ってきた背景を挙げ、色々な友達に囲まれる中で、受験の枠組みにとらわれず、のびのびと興味関心を伸ばしていくことの方が大事である、というお考えです。

このお考えは、まさにごもっともです。しかしながら、陥ってはならない落とし穴があることをお伝えしております。

幼児の受験の学習内容は成長促進剤

何より正しく認識をしていただきたいことは、幼児の受験において学習する事項は、決して形式的な学びではなく、本来的にはお子様の成長を全方位から促進する物であるということです。大多数のご家庭、ご両親にとって幼児の受験というものは身近ではなく、冒頭のお父様のようなお考えを示される方の多くはご自身の中・高・大の受験の印象を幼児の受験に当てはめていることが多くあります。しかしながら幼児の受験で取り組む学習内容は、感性を育み、自己表現の能力を高め、身近な自然や環境に対しての意識を高くし、言語能力や数・図形感覚を向上させて概念形成を促すようなものばかりです。ですから、正しい方向性のもとに取り組みさえすれば、決して受験のためだけの勉強という矮小化された貧弱な学びになることはありません。

いずれ待ち受ける、中学受験

そもそも東京で子育てをされており、しかも幼児教室にたとえわずかでも意識を向けられるようなご家庭にとって、幼稚園受験や小学校受験で一貫校に入学していない場合、大多数は中学受験を経験されることが多いようです。幼児期に続き、大変重要な児童期に夜遅くまで塾通いを何年も続けるとすれば、それにかかる時間や費用も膨大なものです。幼児期に受験を済ませておくことで、しなくても良い苦労を省き、むしろより広く濃密な世界へと自らの力を注いでいくことができます。

試験で問われる力とは?

受験で問われる高度な力

ここでは、幼稚園受験のお話は別の機会にお譲りするとして、一旦小学校受験のお話に限りたいと思います。近年では考査の中でも、より重視される傾向が高まっている行動観察という領域があります。ここでは、正解のない課題に対して一定のコンフリクト状況を意図的に仕組み、その中で子どもたちが互いに関わり合いながら望ましい解決策を考えて一致点や譲歩すべき事情を交わし、合意形成や課題解決の過程においてより良い価値を見出したり、当初は思いもよらなかった糸口を見出したりするような姿勢を問う場面設定がなされることがあります。

お父様にこのような説明を差し上げると、「そんな高度なことを幼児が成しうるのか」というご質問をお受けすることもあります。もちろん、初めから全ての幼児がそのようなことができるわけではありません。しかしながら、こうした課題や日常で出会うさまざまな事象に対して日々真摯に向き合い、困りごとにも「どうしたら良いのかな」と考えながら自らの言動を考えていくうちに、確実に対処する力は養われていきます。そしてその際、適切な導きをする大人の存在は不可欠です。ご両親や幼稚園・保育園の先生、幼児教室の講師はそうした場面において適切な働きかけを促す重要な役割を担っています。

考査における課題の実際

とは言え、実際に子どもたちが取り組む課題としては、「お友達と協力しながら積み木を高く積む」とか「こちらからあちらまで、足元のマットから落ちないように渡っていく」といったような、一見シンプルな課題です。教室では、こうした課題の中に、「積み木の数や時間に制約を加える」「足元に、障害物を設置する」といった、子どもたちが自然と協力しなければ課題が達成できないような仕掛けを仕組んでいくことで、子どもたちの思考や行動を促し、ひいては変容を促していきます

子どもたちは元来、ゲーム性のあるような課題に対して意欲的に取り組むことが多いものです。子どもたち自身が「やってみたい」と思えるようなチャレンジを用意し、主体的に取り組む中において、他者との関わりの中で育まれるような非認知的スキルも向上していきます。

受験だけを意識した指導の危うさ

これに対して、受験の目的だけに的を絞った幼児教室の存在をよく耳にします。事実、私どもの教室にも、「受験に必要なことだけ」を教えられる塾でこれまで学んできた、というお子さんが、成長に限界を感じてご相談に見えることがあります。そうしたお子さんを拝見すると、確かに作品づくりにおいても運動においても、ある一定の力を発揮することが多いです。ところが、少し課題の視点をずらして問うたり、踏み込んだ質問をしたり、その子の「得意技」以外のことをやらせてみたりすると、一向にできない、むしろアンバランスとも思えるほどに能力が身に付いていないということもしばしばです。これは、まさにメッキを貼った結果です。私は「軍隊の訓練」という表現をすることもあります。毎回、同じような課題に対して、同じような物を作り、何を聞かれても自分があらかじめ決めた答えに無理やり引っ張ってくるような回答。確かに、それによって育まれる力も一定程度あることは認めます。訓練によってできることが自信になることもあるでしょう。しかしながら、それだけを目的にすることは非常に危険です。

毎回同じパターンの絵や工作でも良し・・・?

一つの学校の試験を受けるのは基本的に1回だけ。だから毎回同じパターンの絵や工作でも、その1回の試験当日に練習を重ねた「得意技」を出しさえすれば良いと考える方もいるでしょう。私どもも受験を支える幼児教室である以上、合格のことだけを考えれば、そうしたやり方の全てを否定することはできません。

しかし、です。

それはお子さんにとって、望ましい成長が果たされた結果なのでしょうか?
ご両親が望む成長の本来的な姿なのでしょうか。

この点を冷静に考えた末、受験に対して懐疑的なお考えを抱かれているのが、冒頭のお父様のようなパターンです。優れた洞察に賛辞を述べたい思いです。

子どもに育みたい、本質的な力

奥行きのある子どもに育てるには

当会では、決して受験だけを目的にした指導を行うことはありません。一つの型を、繰り返しの訓練によって無理に仕込むようなことをしません。むしろ、寄り道、脇道、いろんな道を通っていくことによって、子どもたちを奥行きのある姿に育てていきたいと考えています。その象徴的な例が、当会で力を入れている体験活動≒キャンプです。

受験のことだけを考えれば、キャンプに連れていく必要はありません。火おこしをしてカレーを作ったり、ライフジャケットをつけて離島の海に飛び込んだり、冬山で雪まみれになって遊んだりスキーを滑ったりする課題は、受験の当日には出題されないからです。

けれども、こうした非日常の中での冒険的な経験を通じて子どもたちの内面にはかけがえのない宝が蓄積されていくと考えています。カレー作りは、カレーを作ること自体が目的ではありません。その過程において話をよく聞き、聞き取った結果を自らの行動に反映し、お友達と力を合わせつつも時に直面する困難や予想外に対処し、自分の考えを抑えてお友達の意見を尊重し、結果として出来上がったものに対して喜びを分かち合う、そうした一連の背景にこそ価値を置いています。

離島での共同生活も、冬山でのスキーも、それ自体の楽しさというよりも、むしろ過程における自律、協調、困難への対処、内省、挑戦、分かち合い、こうした力を育む教育にこそ価値を置いています

本質を意識した日常の指導

また、私たちが教室における日々の教育活動で大切にしているのは、学習内容そのものだけではありません。教室で絵を描くときにも、運動をするときにも、ペーパーに取り組むときでさえ、その背後にある本質を意識しています。

物をよく観察して、特徴を見極める姿勢

自らの身体をより安全に効果的に動かして運動につなげる思考

身の回りの事物についての知識を深めて自らの生活に生かそうとする態度

言語や数などの概念形成に必要な基礎を身につけ、自らの世界を広げていく主体性

こうした力の育成を意識せず、ただ受験の目的だけを考えた一定の「仕草」を身につけても、その価値はかなり減衰されていると言わざるを得ません。

子どもの成長の結果として臨む、入学試験

プロである先生方の目はごまかせない

園や学校の先生方は、子どもを育てるプロです。まして、私立・国立の園・学校に勤める先生方は先生集団の中でも飛び抜けて優秀な方々が集まるところです。そうした本質への洞察に優れた先生方にとって、受験のその日のためだけに身につけてきたようなメッキを見抜くことはいとも容易いことです。何年間も、時には十何年間も先を見据えて、そのお子さんが、その園・学校で力を伸ばしていくことができるかどうか、そのポテンシャルを測るのが入学考査です。ご家庭にとっても、その意識を強く抱いていただき、試験に臨んでいただきたいと考えています。

「近所だから受けてみようと思う」というような言葉は、たとえ謙遜であっても言うべきではありません。お子さんにとって幼児期の大切な時間を注ぐことになる試験です。お子さんの成長に真摯に向き合い、育ちの環境を全力で支えようとされる親御様のもとに、その結果として道が開かれるのが幼児の受験であるということを肝に銘じ、安易な動機にお子様が巻き込まれることのないことを願います。

本質を磨き上げることで、考査の突破を目指しましょう

大切なお子さんの外側に空虚なはりぼてを作り上げることではなく、内面から本質を磨き上げていくことの重要性をお伝えしていくことが、私共が教室を運営していく上でも非常に重要な使命であると感じています。

こうした育みによって育ったお子さんの、活力に満ち、自信を持って自己表現をして、物事に対する意欲を示す姿は繕って出来るものではないため、結果として先生方の目にも留まり、考査の結果も望ましいものになるでしょう。

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執筆
小学校受験コース 主任講師 松下健太

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