【コラム】評価の観点
慶楓会 小学校受験コース主任 松下健太です。
「何を、どこまで出来ていれば良いのか」
受験準備を進める中で、保護者の方は常に頭を悩ませている事項かと存じます。ある時、ある場面においてお子様の活躍を目の当たりにし「できている」と喜色満面になっても、別の時に他の場面ではお子様の逸脱行動に「全然駄目だ……」と肩を落とされたり、と保護者の方のメンタルが乱高下するのに対して、教室として保護者の方の精神的なサポートを行うことも大切であると感じております。ただしその際、単なる慰めに終わるのではなく、適切な観点でお子様の実態を見取ることの大切さをお伝えしています。
模試の評価は当てにならない
当会は少人数で細やかにご指導を差し上げていることに加え、授業内での子どもたちに対しての頻繁な個別の声かけ、授業後の丁寧な趣旨解説、ならびに保護者との随時面談など、ご家庭に対して日常的にフィードバックをお伝えする機会を多く設けています。
大抵の場合はこちらのお伝えを真摯に受け止めてくださることが多いのですが、課題点について率直にお伝えすることもあるためか、時にはご理解いただくのに時間がかかることもあります。特に、ご入会を検討されている段階であったり、入会後、未だ日が浅い場合などはそのような傾向が顕著となります。
また、外部の模試などをお持ちになって、そこに記載されている結果に基づき一喜一憂されたりする姿も多くございますが、そのような時、「模試の評価については、当てになりません」ということを申し上げています。なぜなら、小学校受験の模試の評価は、ほとんどの場合、実際の入学考査でテスターや合否判定を行ったことのない、幼児教室関係者の方がいわば恣意的な基準で採点を行なっているからです。
判断の基盤は、学校生活における学び
慶楓会では、元私立小学校の教師である小学校受験コースの主任講師をはじめ、学校の中でどのような基準で合否判定を行っているかを身をもって知っている講師が複数在籍しております。また、講師間の連絡会や研修などを通じて、受験に向けて、会として考える望ましい導き方を常に共有・研修しております。そうした中において、幼児の学習に関して、どのような姿勢で学びを深め、また何を身につけておくべきかについて、共通理解を図っております。その際に、やはり判断の基盤となるのは、実際の学校生活における学びの姿があります。
小学校に入ってからの学びにおいては、単なる知識の注入や軍隊的訓練は、豊かな教育と見なされていないということは、教育を専門とされていない方にとっても何となくはご想像いただけるのではないかと考えます。そうした、学校での学びのあり方について何の考慮も行わず、幼児期において「とりあえず難しいペーパーの問題が解ければ良い」「縄跳びを100回跳べれば良い」というような安易な発想に基づく受験準備をしても、非常に限られた成果しか生まないことはご理解いただけると思います。
学校教育における観点
すべての学校は、私立学校といえども日本の学校教育制度のもとに運営されている以上、一定程度、国全体の教育施策の影響下にあります。教育施策の策定にあたっては、全国におけるこれまでの実践の積み重ねと、諸外国も含めた最新の研究の成果を踏まえて判断がなされるものですから、突然の突飛な物事というものは余りありません。教育施策のうち学校教育活動に関する具体的内容を校種ごとに定めて公示されている「学習指導要領」(およそ10年毎に改訂)においても、学力の3要素として以下が挙げられています。
- 基礎的な知識・技能
- 思考力・判断力・表現力等の能力
- 主体的に学習に取り組む態度
これらに対応するように「習得・活用・探究」という学びのあり方について述べられることもあり、これらの観点を考えても、インプットとアウトプットを1対1対応させるだけにとどまるような知識の暗記や、意図や目的を顧みない技能だけの伸長は、非常に限られた狭い視野の話であるということがお分かりいただけると思います。(暗記や技能の伸長そのものが悪いと言っているわけではありません)また近年において、東京大学の市川伸一氏は「ゆとり教育」が「教えずに考えさせる教育」であったことを批判して、「教えて考えさせる授業」を提唱しています。
日々の教育活動を行なっている先生方が、合否判定を行っている
日本国全体の教育行政の妥当性に関しても、時代や地域によってその判断軸は常に変化していくことが当然であるため、これについても「唯一絶対の解」と思い込むことは極めて危険ではありますが、現代・現時点での叡智として参考にすることには意味があるでしょう。少なくとも、教科書の執筆者に名を連ねるような先生方が在職されているような多くの私立小学校において、上に述べたような学力観、授業観は、もはや当然の位置づけとされていると言っても過言ではありません。
そして、入学考査においては、そうした教育活動を日々行なっていらっしゃる先生方が実際に考査を進行、採点をして、合否判定を行うということを忘れてはなりません。
短絡的で貧弱な学力観の危険性
そうした中、幼児教室において提供する学習についても、経験則にのみ基づくような安直で狭い視野の受験対策に、むしろ危機感を覚えていただきたいとさえ思っております。そのため、お子様の見取りについても、「クマ歩きを○秒でできるように」といったような、貧弱な観点で評価を行う危険性を認識していただくように伝えています。また、「△△の力を上げるためには何をすれば良いでしょうか?」といったご質問に対しても「これだけをすれば良い」という底の浅い回答を差し上げることはありません。
以前のコラムにも記述しました通り、一部の方に限って、どうもそのような短絡的な「答え」を求めようとされるご様子が見え隠れすることもあり、そうした方には私どもの価値観を改めて丁寧にお伝えするようにしています。性急に「答え」を求めるご家庭に時間をかけてお話を伺うと、お子様に求める姿としても事前に想定した質問に対する単一の答えを暗記するようなご様子が見えます。質問項目や、暗記した回答内容の実質的な意味を理解することを軽視して、「質問という入力に対して、脳内に事前登録された回答を出力する」というような、まるでロボットの如き貧弱な学力観のもとに詰め込みを行おうとされていることをお聞きすると、そのお子さんの将来に非常に大きな危惧を抱きます。
豊かな学びのあり方への意識を
私どもはお子様を中心にした現状をご家庭と共有し、共に迷い、悩みつつも寄り添って模索しながら進む毎日を過ごす日々にこそ、誠実な歩みの価値が備えられると考えております。そのため、せっかく私どもの教室まで足を運んでくださったご家庭には、慶楓会が大切にする価値観について丁寧にご説明差し上げるようにはしているものの、一方では私どもの考えを押し付けるような思いもございません。世の中には別の価値観のもとに「受験対策」のみを掲げる教室もあることをお知らせして、ご家庭としてどのような歩みを望んでおられるのかをお考えいただくようにお願いをしております。
慶楓会で共に歩んでいただくご家庭には、是非とも豊かな学びのあり方について深く考えていただきたいと願っております。
執筆
小学校受験コース 主任講師 松下健太
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